閣僚たちの失言によって瞬く間に支持率を失った第一次安倍政権は記憶に新しい。久間章生防衛大臣(当時、以下同)の「(原爆投下は)しょうがない」、柳澤伯夫厚労大臣の「(女性は)産む機械」、そして不透明な事務所費を訊ねられた松岡利勝農水大臣の「ナントカ還元水」発言……相次ぐ失言に対して安倍首相が「お咎めなし」の姿勢を貫いたことで、求心力低下も招いた。
そしていま、第二次安倍政権でもそうした失言、方言が散見され始めている。
自民党新人の大久保三代衆院議員は自らのブログで、大先輩の石破茂幹事長に“ヘイトスピーチ”。参院選候補者のポスターを1000枚貼るように指示されたことに対して、「あ~、胃が痛い。これはきっと、ストレス性イシバ症候群だわ。呼び出し五秒前なんだけど、説教されたからって、ポスターは一枚も増えないのにさ」(6月4日)。
また相次いで地元秘書が辞めたことに関して、「手伝おうとしない男子秘書。手伝おうとするけど、的外れの女性秘書」(4月27日)「短い秘書は、三日しか続きませんでしたね。(中略)地元秘書の辞表を黙って受け取ったのは私が味わってきた苦労を強いて、続けさせることはできないと思ったからでした。
並外れた精神力と覚悟がなければ続けられない自民党。自分党では、いつまでたっても輪は広がらないと思いつつ、どうにもできない大久保です」(5月10日)と問題発言を繰り返した。
新人がこうなら幹部も負けていない。このたび原発事故の災禍から今も立ち直っていない福島県民を激怒させたのが、神戸市での講演で「福島第一原発事故によって死者は出ていない」と述べた高市早苗政調会長である。
震災や原発事故による福島県内の関連死者は1400人以上に達する中、不適切な発言と言わざるを得ない。党内からも大顰蹙を買ったことで、19日には「撤回し、おわび申し上げる」と陳謝したが後の祭り。安倍政権が目論む「原発再稼働」は後退した格好である。
失言癖から総理の座を失った麻生太郎財務大臣も“アベノリスク”の一つである。今年1月には政府の社会保障制度改革国民会議の席で、終末期高額医療費を巡って「さっさと死ねるようにしてもらうなど、いろいろと考えないと解決しない」と発言。今年4月の衆議院の予算委員会でも「いい加減に生きている人の医療費を俺が払ってると思うとバカバカしい」といつもの“べらんめえ調”で言い放った。政治評論家の浅川博忠氏が語った。
「閣僚たちの問題発言が頻発しているところをみると、自民党は高い支持率に胡坐をかき始めたのではないでしょうか。党内には安倍首相の言動に対して自制を求める声もあるようですが、大勢を占めるのが安倍首相へのゴマすり運動です。
野党がこの体たらくでは7月の参院選で自民が勝つのは間違いない。そうなれば安倍首相の立場はもっと強固になり、長期政権も見えてくる。9月には党の役員人事もあるので内閣も一部改造されます。そこに党人事で抜擢されるためにも安倍さんに取りいっていた方がお得―私はこうした自民党議員たちの心情を『アベノポチ現象』と呼んでいます。
皆、安倍首相のペット=ポチなんですよ。いま、官邸には安倍首相にとって都合のよい情報しか上がらなくなっています。耳の痛い情報がトップまで届かないのでどうしても現実との乖離が生じてしまう」
※週刊ポスト2013年7月5日号