TPP参加の是非を巡る議論が日本国内で続いている。しかし交渉開始を目前にしたいま、アメリカ側は日本の「食品安全基準」までターゲットにしてきた。
政府はTPP参加でGDPを3兆円以上押し上げる効果があるというが、その言葉に踊らされていると「食の安全」を売り渡すことにもなりかねないのだ。
パブリックコメント(意見募集)を出している団体・企業の約半数が、農業・食品関連である。これまで閉鎖されてきた日本の食市場が開かれることに対して、アメリカ側の期待がいかに高いかがよくわかる。
まず目につくのは、関税撤廃を強く求める文言だ。
米国ポテト貿易連盟は、「ポテト加工品の関税撤廃は、TPP交渉において、日本に対する、米国ポテト貿易連盟の最優先事項だ」と言い切り、小麦や大豆を扱う穀物メジャーのカーギルも、「TPPは包括的事業とすること。すべての商品、すべての商業部門を含む包括的なものでなければならない。(中略)すべての関税は段階的にゼロとなるべきで、関税割当制(*注)は撤廃すべきである」と断じた。
しかし、より重要なのは、関税撤廃とともに、日本の“食の安全”に関する規制についても、アメリカ側は「規制緩和あるいは撤廃」を強く要求していることである。
たとえば前出の米国ポテト貿易連盟は、「日本における重大な非関税障壁は、米国では使用できるが、日本では使用できない食品添加物や加工助剤の厳しい要求基準に関するものだ」といい、こう日本を批判する。
「日本は食品添加物の多くについて基準を設けてないばかりに、米国の商品に含まれる添加物の使用を禁じている。(中略)添加物の徹底的な禁止に加え、日本の食品規制は、何が不許可で何が許可かが鮮明ではない。TPPは、未処理となっている食品添加物の要求を処理する機会となる」
続いて米国小麦協会は、日本の厳しい「残留農薬基準」を、アメリカが採用する国際基準レベルまで緩和すべきだと主張する。
「日本は現在、数百の化学残留物について、輸入小麦を試験している。新たな有効成分、あるいはすでに承認されている成分を新たに使用する場合の日本の評価プロセスは考えられないほど長ったらしい。
(中略)科学的根拠に基づく評価の必要性は認めるが、決定までの過度の遅れは受け入れられるものではない。この問題を解決する一つのオプションとしては、日本が(アメリカが採用する国際基準の)CODEX基準を採用するということであろう」
ケンタッキーフライドチキンやピザハットを運営する外食大手ヤムは、よりストレートな書きぶりだ。
「いかなる月齢その他の制限もなしにあらゆるアメリカ産牛肉の輸入を認めるよう、さらなる圧力をかけるよう要請する」
アメリカ産牛肉については、BSE(牛海綿状脳症)の危険性から日本側は月齢を厳しく制限してきた。だが同社は、今年になって生後20か月以下から30か月以下まで緩和されたアメリカ産牛肉の輸入規制を、すべて撤廃せよというのだ。それだけではない。
「当社はいかなる国の税関手続き義務をも尊重するものであるが、全ての原料とその含有比率情報を100%提供することは、競合企業に当該情報が漏れてしまう危険をもたらす」
同社に限らずアメリカの飲食業界は、日本における食品の検査体制緩和とともに、原材料表示についても緩和することを日本に徹底要求している。
原材料表示に関しては、日本で表示義務のある「遺伝子組み換え食品」についても、表示義務を撤廃するかどうかが大きな議題として挙げられている。アメリカの大豆や小麦、トウモロコシは大部分が遺伝子組み換えに移行しており、日本への輸出も拡大したい意向が背景にあるのだ。
【*注】関税割当制/一定の輸入量に限り無税か低税率を適用する一方、その一定量を超える輸入分には高税率を適用することによって、国内生産者の保護を図る仕組み。
※週刊ポスト2013年7月5日号