「言った、言わない」と、まるで痴話喧嘩のようなやり取りが続いたのが、6月25日に埼玉県所沢市で開かれた西武ホールディングス(HD)の株主総会。
筆頭株主である米投資会社サーベラスがTOB(株式公開買い付け)による経営権の乗っ取りを仕掛けたこともあり、会場には過去最高となる940人の株主が押し掛けた。
「我々は不採算路線の廃止や西武ライオンズの売却は一切提案していませんし、これからも提案する気はまったくない。にもかかわらず、これをサーベラス側が提案したかのように繰り返し述べ、近隣住民やライオンズファンをいたずらに不安に陥れた」
2度にわたるTOB期間延長でも、わずか3%増となる35.48%の株式保有比率にしかならなかったサーベラス。その要因のひとつが、株主や地域住民の反発を食らった個別事業のリストラ案とされただけに、恨み節は収まる気配がない。
一方、西武HDの後藤高志社長は、極めて冷静にこう反論した。
「昨年10月にサーベラスグループの最高経営責任者から書面が届き、不要5路線の廃止、さらにはライオンズの売却検討などの要請がきた。『イニシアティブ』という表現で記載され、今年1月には『確約せよ』という文言でさらに強く迫ってきた。文書で来ているにもかかわらず、『提案していない』とコメントするのは理解に苦しむ」
手紙の文面が一部報道機関にも漏れたことから、その後も「株主からの文書を開示するのはビジネス上の礼節に欠ける」(サーベラス側)、「TOBに対する意見表明報告書の提出にあたって重要な要素だった」(西武側)と応酬は続いた。
真偽のほどはどうあれ、TOBの結果からも株主総会の勝敗はすでに決まっていた。結局、サーベラスが株主提案していた8人の取締役選任はすべて否決され、5時間に迫る長丁場の総会は終わった。
これでいよいよ、後藤社長が「機は熟した」と話す再上場への道が開けてくる――。帰り際にそう胸をなで下ろす株主も多数いたが、サーベラスの呪縛が完全に解けたとは言い難い。経済ジャーナリストの松崎隆司氏も「これから本当の山場を迎える」と見る。
「これまで西武はサーベラスの攻撃を防いでいればよかったが、今後は取り込みにいかなければなりません。というのも、上場に際してサーベラスが株を売らないと言った場合、つまはじきにして上場する方法もありますが、これをやったら他の主要株主から株を売ってもらう必要があります。すると、安定株主の割合が減るので、またTOBを仕掛けられたら今以上に危険な状況に追い込まれます」(松崎氏)
とはいえ、サーベラス側も西武の上場がこれ以上延びるのは望んでいない。経済誌『月刊BOSS』編集長の河野圭祐氏が話す。
「市場が乱高下しているとはいえ、サーベラスとしては西武につぎ込んだ投資の出口戦略を探っていかざるを得ませんし、非上場のままでは株の売却先も決めにくい。長期戦で妥協点を見出すよりも、早期の上場で何らかの接点がある事業会社や同業者に高く売りたいはずです」
「(西武は)右手で握手をし、左手で拳を上げているのと同じ」。総会後にこう不快感を示したサーベラスのシニア・マネージング・ディレクターのルイス・フォースター氏。
まさにボタンの掛け違えで「同床異夢」の関係になってしまった西武とサーベラス。悲願の再上場に向けた駆け引きは、いましばらく続きそうだ。