橋下徹大阪市長の慰安婦発言や、猪瀬直樹東京都知事の五輪招致を巡る発言など、地方自治体の首長の発言が、国際社会から批判される事態が相次いでいる。作家・元外務省主任分析官の佐藤優氏は、「首長の是非以前に、国際社会の感覚が理解できていないから失言が続く」と分析。橋下氏の慰安婦問題を巡る発言の影響をこのように解説する。
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5月23日、ロシア外務省公式サイトに「第二次世界大戦時の韓国/朝鮮と中国における『慰安婦』問題をめぐる橋下大阪市長の発言に関する『リア・ノーボスチ』通信社の質問に対するルカシェビッチ露外務省報道官の回答」と題する文書が掲載された。以下は筆者がロシア語文の質問と回答を翻訳したものだ。
〈質問:先週、日本維新の会の代表の一人で大阪市長でもあるT・橋下氏が、第二次世界大戦時の韓国/朝鮮と中国における『慰安婦』問題をめぐる発言において、日本軍人に対して性的奉仕をする必要があったと指摘しました。この発言は、北京やソウルだけでなくワシントンでも深刻な不満を引き起こしています。本件に関してロシアはどのような態度を取りますか。
回答:モスクワでも、最近、日本の政治的エスタブリッシュメントが過去の歴史に関して民族主義的レトリックを大声で叫んでいることに関心を払っています。とりわけ注視しているのは複数の政治家が繰り返し、「慰安婦」を用いたという恥ずべき慣行や彼女らを性奴隷に組み込んだことに対して「潔白である」との主張を試みるか、正当化さえしていることです。
橋下氏の口から発せられる“戦争中においてこの慣行は「必然的現象」だった。そして戦闘の中断期間に兵士を「息抜きさせる」助けになったそうである”というレトリックはとりわけ冷笑的性格を帯びています。
このような発言は、戦後の現実を受け入れないことを含め、第二次世界大戦の結果について世界で受容されている価値観からかけ離れている。これは、偏向した考え方を日本社会に押しつけようとする一部の政治勢力による継続的画策を背景にしてなされたものであるということが注目に値します。(以下略)〉
この声明を利用して、ロシア外務省内の一部勢力は、「戦後の現実の結果をすべて受け入れよ」と北方領土の日本への返還を拒否することに結びつけるであろう。橋下発言は、北方領土交渉にも悪影響を与え始めている。
※SAPIO2013年7月号