今では多種多様な役柄に取り組む俳優として認知され、再起動したJAC(ジャパンアクションクラブ)では研修生を募集し後進の育成にも余念がない千葉真一氏だが、デビューからしばらくは、さわやかな二枚目俳優というイメージが強かった。その壁を破ったのは、『仁義なき戦い~広島市死闘篇』(深作欣二監督、1973年)で愚連隊長・大友勝利を演じたことだったと語る千葉の言葉を、映画史・時代劇研究家の春日太一氏が綴る。
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千葉真一は1961年に映画デビューし、1968年のテレビシリーズ『キイハンター』でブレイクするが、演じてきた役のほとんどは爽やかな二枚目で、人気の中心も女性や子供たちであった。それが一変するのが、1973年の映画『仁義なき戦い~広島死闘篇』。本作で千葉は、下品で凶暴な愚連隊長・大友勝利を演じ、野性的な殺気を芝居にほとばしらせるようになっていく。
監督は深作欣二。千葉の初主演作が深作の初監督作、また『キイハンター』に千葉を起用したのは第一話を担当した深作であるなど、両者の縁は深い。
「最初は『これは俺にはできねえ』って思いました。で、深作欣二は俺に何をさせようとしているのか悩んで。それで一週間したところで壁が破れたんです。これでいこう、と。それは、今まで何十年の千葉真一を捨てる、ということでした。ちょっとでも千葉真一が出てはいけない。今までの千葉真一らしさを全て無くすこと。
これまではカッコいい動きばかりを要求されてきましたが、今回は思い切り無様さを出そうとしました。殴るにしても、カッコよくやるんじゃなくて、体勢を崩しながら、とか。話し方もトーンを高くしたり。相手にピストルを向けた時は、ボール紙で顔を隠しました。あれは僕のアイディアです。深作監督も拍手して喜んでくれて。
そういう役を作り上げた時に気づいたんです。悪というのは面白い、と。新宿の映画館でお客さんに交じって観たんですが、『千葉真一、どこに出てた?』という人がいたんです。それが嬉しくて。それ以来、いろんな役をやりたくなりました」
●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』(PHP新書)ほか。
*再起動したジャパンアクションクラブでは、研修生を募集中。詳細は www.jac-nkl.comへ。
※週刊ポスト2013年7月5日号