富士山、伊豆、鈴鹿など、2004年から全国19の地域で導入されている自動車の「ご当地ナンバー」。国土交通省は第2弾となる新規追加の応募を6月28日に締め切る。地域を細かく分けた新ナンバーは、「地元に愛着が沸く」「遠方でも新鮮なイメージで見られる」と概ね好評なようだ。
だが、その一方で国交省が審査基準にしている地域振興に向けた活用策が見えにくかったり、ナンバー変更に伴う手続きが煩雑だったりと、ご当地ナンバーの必要性そのものに疑問を投げかける向きがあるのも事実。高級住宅街のイメージが強い東京・世田谷区では“世田谷ナンバー”の申請にあたり、新設を反対する会まで立ち上がっている。
「これまで付けていた品川ナンバーは日本で1番人気のブランドですし、今さら世田谷区民であることを、わざわざ車のナンバーで強調する意味が分かりません。高級的なイメージをPRしたいなら、青山・赤坂・麻布など、もっと都心寄りの港区を分ければいいと思う」(40代・世田谷区民)
こうした住民の声に、世田谷区はどう答えるのだろうか。産業政策部商業課の新藤達夫課長に聞いてみた。
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――世田谷ナンバーの導入を申請しようと思った経緯は?
「ご当地ナンバーは2004年に第一弾が決められたときから区議会で質問が飛んでいました。そのときは、原則として複数の市区町村が集合体で申し込むことになっていたので諦めましたが、実際には堺市や仙台市などは単独で選ばれた。ならば、世田谷だけでも可能性はあるのかなと動き出したのです」
――ご当地ナンバーのメリットは?
「国のほうで認めているように、知名度の向上や地域の活性化に一定程度の効果があると考えています。世田谷という名前を知っていただくだけでなく、それを機会にどんな場所なんだろうという魅力を発信させていただくのは行政の役目ですからね。
また、昨年11月に区内の産業団体が『世田谷ナンバーを実現する会』を立ち上げられたので、区も参加をさせていただきながら、区民へのPR活動を一緒にしてきました」
――知名度向上や経済効果などの試算はしていないのか。
「地域への愛着や一体感、地域振興などをどうやって数字で表すのかは難しいところです。しかも、世田谷ナンバーの導入が認められたからといってすべて終わりではありません。導入されたナンバーをいかに活用するか。日頃の啓発活動やPR活動にうまく役立てていただかないと意味がありません」
――例えば、どんな活用策が考えられるのか。
「交通安全等の取り組みで、地元ナンバーをつけて優しい運転をしましょうと意識付けするなど、啓発効果をより高めることに使えると思います。そういう知恵は行政だけではなく、民間の方々や区民の皆さんの協力が欠かせません」
――区民がどれだけ新ナンバーを望んでいるかについては、4月にアンケートを行った。
「はい。無作為抽出で4000人の区民と500の事業者、団体にアンケートを送り、約半分の方からご回答をいただきました。その結果、約8割の方が賛成で15%ぐらいの方が反対でした。その他、実現する会の署名も現在2万7000~8000が集まっています。それらを総合的に判断し、最終的に申請を決めました」
――その一方で、反対する会もできている。そこではアンケートの結果が60代以上の声に偏っているなど指摘されている。
「人数は無作為で抽出しましたが、地域は広いので10に分け、まんべんなく意見が聞ける方法を取りました。その際、男女や20代以上の年齢比は考えずにやった結果、たまたま60代以上の方が多くなったということです」
――区民の反対意見は承知しているか。
「議会の場でも心配される点が質問されて、その都度、区の考え方は先行自治体にヒアリングなどしながら説明しています。世田谷には90万人近くの住民がいて、さまざまなご意見の人がいるのは当然です。
『福祉や教育問題など他にやることがあるだろう』と言われる方もいます。もちろん区はそういった政策を疎かにしているわけではありません。また、世田谷に住んでいることがクルマを見て分かってしまうと心配される方もいます。ただ、世田谷区のどこに住んでいるかまでは分かりませんし、もっと人口の少ない導入自治体でもプライバシーの問題が起きているとは聞いていません」
――世田谷ナンバーの申請にあたり、行政コストがかかっているとの声もある。
「これまでにかかった費用は約80万円。内訳はアンケート調査の郵便コストで60万円、残りは区内の施設に立てた20本の“のぼり代”の経費です」
――導入後のナンバー変更手続きが面倒になる。
「導入が実現してからは順次、世田谷ナンバーに切り替わることになりますが、その手続きは通常、車を購入されたときと同じで負担額も変わりません。また、現在、品川ナンバーに乗られている方は、変更を希望すれば有料になってしまいますが、希望しなければ車検を通してもそのままの品川ナンバーが使用できます」
――結局、反対派の意見は申請に影響しなかったということか。
「賛成派、反対派のボリュームでいうと、圧倒的に賛成派が多いことは、アンケート結果や署名運動などで明らかになっています。ただ、反対意見も聞いていないわけではなく、区民からいただく声や区長へのメールなどでも承知しております。
導入の決定は夏ごろで、まだどうなるか分かりませんが、区としては今後とも住民の皆さん全員にご理解をいただけるよう、丁寧な説明を心掛けていきます」