両胸にがんが見つかった、ノンフィクション作家の島村菜津さん(49才)は全摘+再建手術を選択した。乳がんの治療では、一時、温存が主流だったが、いままた、全摘+再建手術が増加しているという。みずからが体験してわかった、再建手術の現状と問題点とは――。島村さんが解説する。
* * *
『聖路加国際病院』の乳腺外科医である尹玲花さんは、日本初の乳房再建を専門とする品川の『ブレストサージャクリニック』で週に1度、研修に入っている。
「通いながら、合併症などのデータを調べているんです。せっかく乳房再建したのに、やっと手術痕が落ち着いたところで皮膚が変色したり、形が崩れたというのでは、患者さんの精神的な負担は想像を絶する。けれども現状では、どうしても3~5%の人が合併症を起こすんです。術前や術後に放射線治療を受けた患者さんの場合には、残念ですが全体の4分の1が合併症を起こします」(尹さん)
なぜ、尹さんが合併症の実態を調査するのか。それは、7月からシリコンインプラントによる乳房再建に保険が適用されることと関係がある。
この適用されたインプラントは、豊胸手術によく使われてきたお椀形のタイプだけではあるが、3割負担になったことで需要が増え、全国で再建手術経験の少ない医師たちが、こぞってインプラントによる再建に乗り出すだろうと推測される。
しかし、尹さんは、そこに潜む危険性を指摘する。
「正直なところ、人工乳房の手術には、うまい下手がかなりあるんです」(尹さん)
2011年、『ブレストサージャクリニック』の院長・岩平佳子さんが、中村清吾さん(昭和大学病院ブレストセンター長)らと開いた乳房再建の勉強会の会場は、約400人、定員の何倍もの医師たちで溢れ返った。
乳がん患者も増加するなか、医師たちの関心は、ますます高まっているようだ。
中村清吾さんは、再建の整容性と根治性を常に検討する「日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会」を設立。これに所属する医師の監督下で再建を行うことを義務づけ、この事態に対処していこうとしている。
ただでさえ、病への不安と偏見、医療費の負担を抱えた患者たちが、さらに医療側の不手際や未熟な技術によってその悩みを深めることがないことを祈りたい。
乳房への感性や治療法へのこだわりは、温泉に入れるかが気がかりの高齢者と子育てを終えた中年層、出産や結婚を控えた若年層、そして個人によって、まるで異なる。
効率化が進む医療の世界で、そんな個々の患者の物語に寄り添うような医療が、今後いっそう求められていくのだろう。
※女性セブン2013年7月11日号