元AKB48・前田敦子が『情熱大陸』に出演した際に語った「私が負けなきゃいいだけの話ですよね」との言葉に衝撃を受け、繰り返し見ているという直木賞作家の朝井リョウさん(24才)。AKBファンかと思いきや、「アイドルが集団の中で競い合っているのを観るのが好きなんです」とキッパリ。独自の視点でアイドルを語ってくれた。
――朝井さんはAKB48のファンなんですか?
朝井:集団で競い合っている人達を見るのが好きなんですよ。だから『ミス・ユニバース・ジャパン』とかも大好き。でもいちばん好きなのは、オーディションを受けている子たちなんですよね。AKBのファンでもありますけど、AKBの誰かのファンというよりもアイドルを生むシステムが魅力的だなと思っています。AKBは、チームが変わったり研究生から上がったり順位をつけられたり、ずっとオーディションを見ていられるようなところがすごく好きです。ぼくは『ASAYAN』(テレビ東京)を見て育ったので、オーディションがとにかく好きなんです。あんなに若い人達が敵対心を剥き出しにしているのが、「生きてる!」って感じがして。
――それは女性に限るのでしょうか?
朝井:男のオーディション番組も見てたんですよ。『ASAYAN』でケミストリーが誕生したときのもずっと見てたし。ご・あきうえさんがファッションデザイナーとしてデビューする過程も全て見ていました。最近だと吉本のL.A.F.U.っていうステージユニットのオーディションとか。でも、男子だとみんな仲良くなって男子校みたいになってきちゃうんですよ。オーディション系は、競い合うのが面白いので女子のほうがいいですね。女子は戦いが終わってからでないと讃え合わない。男子だと、戦いのさなかなのにキレイな汗とかかきだすから。見たいのはそこじゃない感が強いですね。
――人間の本性が出るほうが見ていて面白いですよね。
朝井:AKBの総選挙も、最近は戦いのさなかから讃えあう風潮が出てきているような気がしますけれども。第1回の総選挙とかはもっとギスギスしてゲリラ戦な感じですごかったんです。スピーチも「なんでこんな順位なの?」みたいな空気だったんですけど、今は「票数は愛です」みたいになっちゃってますよね。「もっと上を目指して成長していきたいです」って百万回聞いたよ!みたいな。
――これまでの総選挙で印象に残っているシーンとかありますか?
朝井:去年は、17位の高城亜樹さんだけがずっとブスッとしていて。彼女の「欲」はとても目につきました。自分の順位が呼ばれたときにすぐに立ち上がらなかったんですよ。ほんの数秒ですが「私じゃない」というように、椅子に座り続けていたんです。隣の高橋みなみさんに促されるようにしてやっと立ちあがって、素っ気なく盾を受け取って……それがすごくかっこよかった。昔の『ASAYAN』に通ずるものを久しぶりに見ることができたなと思って。
『ASAYAN』では、モーニング娘。のデビュー曲の候補となる3曲をレコーディングしている際、安倍なつみがすごく泣いていたシーンが印象に残っています。なぜ泣いているのか、とカメラマンに聞かれているんですけど、普通だったら「怒られたから」とか「うまく歌えないから」ですよね。だけど安倍なつみは、石黒彩がレコーディングでプロデューサーに褒められていたのを見て泣いていたんですよ。“私の歌うところが減ると思うと悔しくて”って。当時小学生だったんですけど、これはすごい!と思いましたね。モー娘。の子たちは、パート割がどうだとか、カメラ割が自分は何回であの子は何回って数えていた。それが視聴者にもわかるようにテレビの画面が構成されていた。
――前田敦子さんの言葉に影響を受けたと話している記事を見ましたが、それは、どういうことですか?
朝井:前田敦子さんはものすごく人気でしたけど確かにものすごく批判もされていましたよね。もちろん本人もそれはわかっていて。『情熱大陸』の中で「心無い言葉に傷つきませんか」という質問をされたとき、「傷つきますよ。だけど私が負けなきゃいいだけの話ですよね」と答えたんです。この言葉を聞いたときは、本当だ!って衝撃でしたし、納得しました。
作家と会社員との兼業で倒れるんじゃないかなと思うときもあるんですけど、この言葉に、すごく支えられています。自分が負けなきゃいいだけ、ってあまりにも汎用性があってすごい言葉。あと、ラジオ番組で、いとうあさこさんが自分が1200万円を男に貢いだ経験を踏まえて言っていた「20代のうちはいくら働いても死なない」という言葉にも励まされています。
――現在『小説現代』で連載中の小説『スペードの3』では、あるミュージカル女優の追っかけファンを題材にしているとか。今後の小説の予定を教えてください。
朝井:『スペードの3』は来春出版を目指して作業中です。熱烈なファンって、その対象の衣装の装飾ひとつ増えただけで、“あの子、今劇団から押されてるわ”とかすぐ情報交換するんですよ。演劇ファンがガツガツしているところはAKBとすごく似てるんですよね。あるミュージカル女優の追っかけをしている女性とふれ合う機会があったときに物語の着想を得たんですが、ミュージカル女優を追っかけるファンの話と、その主人公の小学生時代が前後して進んでいく中で、どちらもが同じ要素で崩れていくという話を書いています。
また、そのあとにはアイドルのオーディションの話を書こうと構想中です。自分の趣味が爆発する作品になりそうでいまからわくわくしています。また、『何者』のスピンオフ集を出さないかという企画もあります。ひとつずつ、丁寧に、自分の頭の中にあるものを小説として発表していきたいと思っています。
【朝井リョウ(あさい・りょう)】
1989年5月31日生まれ。岐阜県出身。早稲田大学文化構想学部在学中の2009年に『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞、ベストセラーに。『チア男子!!』は第三回高校生が選ぶ天竜文学賞受賞。2012年大学卒業、一般企業に就職。2013年、『何者』(新潮社)で第148回直木賞を受賞。戦後最年少の直木賞受賞者に。