日本人ならば、誰もが一度は苦しむ英会話。学生時代から必死で学んだにもかかわらず、使いこなせぬままの人は少なくない。
ところが皇室の方々は、諸外国の王族や要人と、通訳を介さずとも自然なコミュニケーションができている。当然、我々と同じ国に暮らし、“英語漬け”の毎日を送っているわけでもないのに、である。そこには、皇室ならではともいえる「学習法」があった。
今上天皇の英語力の原点には、1人の米国人女性の尽力があった。エリザベス・グレイ・バイニング夫人。1946年から4年間、家庭教師を務めた。バイニング夫人は、天皇が通っていた学習院中等科でも英語のクラスを受け持っていた。
授業初日、天皇を親しみをこめて「ジミー」と呼び、天皇が「いいえ、私はプリンスです」と返答したエピソードはよく知られている。結局、天皇がその呼び名を受け入れ、2人の親交はバイニング夫人が1999年に他界するまで続いた。
そのバイニング夫人が、当時12歳だった天皇への授業の際に心掛けたことが「英語への興味や関心を抱かせること」だった。読売新聞のインタビュー(1989年1月)で、バイニング夫人はこう語っている。
<サカナに関心がおありなのは知っていたので、魚類図鑑を取り寄せ、それを英語に訳して説明してあげることから始めた>
また、夫人は米国人の少年を紹介し、彼らと「モノポリー」や「スナップ」などのカードゲームで遊ばせたという。
『子どもをバイリンガルに育てる方法』(ダイヤモンド社刊)などの著者で、英語教育者の木下和好氏が指摘する。
「英語習得に欠かせない要素の一つが“絶対的な興味を持つこと”です。努力を意識するとブレーキがかかるので、興味のある分野から英語でアプローチするのは正しい方法といえます」
皇太子の場合もこれに近い。表に英語、裏に日本語で書いた単語カードを2枚1組にして作り、侍従らと単語の意味を答えるカルタ遊びに興じ、英語に馴染んでいった。
※週刊ポスト2013年7月12日号