プロ野球が昨年から導入した統一球が、今年になって日本野球機構(NPB)により極秘に変更されていたことが分かった。加藤良三コミッショナーの無責任な発言もあり、未だに波紋がおさまらない。球が変更されると知っていたら、人生が変わっていただろう野球人たちの今を訪ねた作家の山藤章一郎氏が報告する。
* * *
今季のボールは明らかに「飛ぶ」。交流戦前までの本塁打数は全球団で137本増えた。昨季175本、今季312本。
5月3日、日ハム・中田翔は1試合3本塁打を記録し、5月6日、阪神・ピッチャー能見が初本塁打を打ち、5月18日、この日1日のセ・パ全6試合で、22本の本塁打が生まれた。外野まで飛んだ打球がフェンスオーバーして本塁打になる確率も、2%跳ね上がっている。
兵庫県西宮市。六甲山系の坂途中に水口栄二氏の小・中学生を対象にした野球教室がある。「野球心」とペイントされた白い大きなテントで学ぶ。
昨季まで、オリックスの1軍打撃コーチだった水口氏は坂口智隆、バルディリス、T-岡田などを貴重な戦力に育てた。だが、昨季の公式戦終了後とつぜん解雇。昨季のチーム打率・2割4分1厘。本塁打73本。他チームも、2割5分が平均で、セでは3チームが2割3分だったが、不振の責任を取らされた。
野球教室のテントの中、手作りで張った人工芝に黄色いボールが点々と転がり、小学生がマシーンから飛び出すボールを打っている。テントの隅で言葉少なにいう。
「プロは結果。成績不良による解雇は仕方ないですよ。だけど、昨季、チームの成績が落ちたのは規定以上に飛ばないボールが原因だった。そして今年は、やたらにホームランが出る。私の野球理論、指導が間違いでなかったことが分かった。それで十分です」
他球団でも同様の処分があった。
ロッテ──清田育宏、岡田幸文らを育て、日本一に貢献した金森栄治・1軍打撃コーチ解任。
広島──貧打を立て直せなかったとして、町田公二郎・1軍打撃コーチ解任。
阪神──統一球の壁を打破する特打ちで毎日打撃投手を務めたが結果が出なかった片岡篤史・1軍打撃コーチ、「俺の責任」と辞任。
交流戦の解説で甲子園球場に来たアニキこと金本知憲は、選手の打球が昨季より高い音を残して飛ぶのを見て苦笑いした。
「去年と今年はボールが全然違うな。これなら俺も辞めなくて良かった。15本は、損したよ」
今年は本塁打が多い。疑問が方々で口にされてからずいぶん日を経て、日本野球機構(NPB)はボールの反発係数の変更を発表した。
※週刊ポスト2013年7月12日号