意味をなさなくなった古い規制に既得権者が巣喰って温存され、新しいビジネスを始めようとする者が邪魔をされて利用者が不便を被る──この国の至るところに見られる利権の構図だが、その典型例が「高速道路の道路料金」だと、政策工房社長の原英史氏は訴える。
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2009年の総選挙にあたって民主党が目玉政策の一つとして掲げていたのが「高速道路無料化」だった。だが、いざ政権を取るとなかなか実現できず、そのうち震災復興の財源確保を名目に看板政策は捨て去られることになった。その際、自民党政権下の2009年3月から行なわれていた「休日1000円乗り放題」も一緒になくなってしまった。つまり「無料化」騒動を経て、高速道路の料金は値上げされたわけだ。
高速道路の料金が政治の争点になることは、考えてみれば不思議な話である。同じ交通分野でも、例えば新幹線について「無料化」や「休日1000円乗り放題」を主要政党が公約に掲げることなどない。JRという民間企業の経営判断の問題で、政治家が横から口を出すことはあり得ないからだ。
高速道路も小泉内閣での「道路公団民営化」により、多くの路線は民間企業(NEXCO3社、首都高、阪神高速、本四連絡道各社)が管理することになった。民間企業が管理しているはずの高速道路の料金について、なぜ政治家が口を出すことが当たり前のように罷り通っているのだろう?
民営化されてまだ歴史が浅いこと(JR発足は1987年、NEXCO発足は2005年)が理由として挙げられるかもしれないが、それだけではない。料金についての「根本思想」の違いが背景にあるのだ。
新幹線の料金もそうだが、一般に物の値段は需要と供給で決まる。事業者側は安すぎず高すぎず、ちょうどよい水準に設定することで、できるだけ多く利潤を得ようとする。ところが、高速道路の料金はこれとは全く違う仕組みで決まる。
基本的な考え方は「道路整備で国が借り入れたお金を返済するため、返済が終わるまでの間だけは利用者から料金を取る」というもの。これが「償還主義」と呼ばれる考え方だ。この考え方に基づき、道路整備特別措置法などで料金を徴収できる「徴収期間」(NEXCOなどの管理する高速道路の場合は2050年まで)が定められていて、その間に限り「料金の額の基準」に従って料金を取ることを認めている。
逆に言えば高速道路の場合、NEXCOなどの判断で「もう少し利潤を出すために料金を少し上げよう」とか「利用者が減少傾向だから料金を下げて歯止めをかけよう」といったことは認められない。そもそも、利潤を出すことは許されていない特殊な「料金」なのだ。
※SAPIO2013年7月号