6月下旬、仰天ニュースがインターネットを駆け巡った。中国の最高指導者だったトウ小平氏の長男、トウ樸方氏が1000億ドルをもって中国から逃亡したほか、さらにトウ小平氏の娘や孫も失踪した――という内容だ。中国情報で定評があるニュースウェブサイト「博訊(ボシュン)」が「北京からの至急電」として報じた。
しかし、博訊は4時間後にホームページからそのニュースを消去しており、誤報だった可能性が強いが、習近平政権が現在、大々的に展開している汚職撲滅キャンペーンに絡む動きとの見方も出ている。
博訊が「トウ樸方氏ら失踪」という至急電を流したのは6月25日午前9時ごろ。ニュースは中国語で書かれており、見出しを入れても、わずか5行なので、その全訳を紹介する。
「トウ小平の息子、トウ樸方 1000億ドルをもって中国を逃亡 北京至急電:トウ小平の息子、トウ樸方が中国を逃亡」というのが見出しで本文は以下の通り。
「中国政府の権威部門の高官が明らかにしたところによると、トウ小平の息子、トウ樸方は1000億ドルを持って、すでに中国を逃亡した。どこに向かったかは不明。同時にトウ小平の娘と(トウ小平氏の)孫も失踪。現在、北京当局が行方を追っている」
この記事を読むと、トウ樸方氏らが当局から犯罪の追及を逃れるために、中国を出国し、海外に逃亡したと読み取れる。しかも、トウ樸方氏が所持している金額が1000億ドルと、日本円にして約10兆円と極めて莫大な額。これほどの額を持ち出すことが可能なのか疑問が残る。
さらに、トウ樸方氏のみならず、トウ小平の娘と孫もすでに失踪していると報じていることから、これが本当ならば、トウ小平ファミリーに大きな異変が起こったと考えられる。
しかし、トウ小平氏といえば、改革・開放路線を導入し、現在の中国の経済繁栄の基礎を築いた元勲中の元勲。毛沢東に次ぐ現代中国史上の偉人といってよい。他の幹部ならばいざ知らず、トウ小平ファミリーに官憲の手が及ぶとは考えにくい。現実ならば、驚天動地の事態だ。
ところが、ニュースが掲載されてからほぼ4時間後の25日午後1時ごろには博訊のホームページから、そのニュースが消えていた。
しかし、そのニュースは中国情報専門の華字サイト「汎華網(パンチャイナネット)」に転載されていた。しかも、そこに他ならぬ博訊からの書き込みがあった。書き込みの時間は同日午後1時52分で、全文を紹介すると次のようなもの。
「博訊はこのニュースを修正し、編集者の書き込みを掲載し、会わせて博訊ニュースのホームページからニュースを消去する。(博訊編集者によると、このようなニュースは根拠がなく、理論的にも事実と符合しない。トウ樸方はこのような大金をもって、逃亡することはできない。太子党(高級幹部子弟)の多くは銀行口座間で資金を移動させており、いまだにこの方法を使っている。原稿を書いた友人は常識に注意し、慎重にならねばならない)」
このように博訊の編集者は掲載した責任を原稿の筆者になすりつけているようようだ。
これについて、北京の共産党筋は「習近平ファミリーとトウ小平ファミリーは仲が悪い。習近平の父親の習仲勲は1987年に党政治局員を解任されたが、そこにはトウ小平の意向が働いていた。習近平が最高指導者に就任したことで、トウ小平ファミリーは腐敗容疑で摘発されるのではないかと疑心暗鬼になっており、このようなニュースが流れたのではないか」と指摘している。