むせ返るような獣臭が街中に漂う。市場の店先に並ぶのは茹でられて毛をむしられた中型犬たち。骨を砕く中華包丁の音と、「犬肉」を買い求める人々の声がこだまする──。
6月21日の夏至の日、中国の最南部に位置する広西チワン族自治区の玉林市では、毎年恒例の「茘枝狗肉節(ライチ犬肉祭り)」が開かれた。人口550万の都市では、この日だけで約1万頭分の犬肉が消費される。
夏至に犬肉を食べるのは、この地方の伝統的な風習だ。そこに、今が旬のライチが加わって、町を挙げての年中行事となったのは18年前のことである。
玉林市のみならず、広く犬肉食の習慣が残る中国だが、最近では「犬肉食は野蛮だ」という国内外からのバッシングにさらされている。この日も、北京や上海、香港など都市部から来た反対派がデモ活動を行なっていた。彼らに対し、「犬肉はダメで、鶏肉はいいのでは道理が通らない!」という反論をぶつける玉林市民も少なくなかった。
食用肉として売られるのは、すべて養殖された食用犬だという。市場で犬肉を切り分ける女性の足元に鎖に繋がれた犬を見つけた。「これも食べるのか?」と尋ねたところ、「とんでもない! これはカワイイ飼い犬だ!」と怒られてしまった。
夕暮れ時、犬肉屋台が並ぶ目抜き通りでは、多くの老若男女が「犬肉火鍋」を囲んでいた。私も一軒の屋台で注文した。醤油で煮込まれた犬肉はクセも臭いもない。パサパサした牛スネ肉のようだった。
■リポート/奥窪優木(ジャーナリスト)
※週刊ポスト2013年7月12日号