日本人ならば、誰もが一度は苦しむ英会話。学生時代から必死で学んだにもかかわらず、使いこなせぬままの人は少なくない。
ところが皇室の方々は、諸外国の王族や要人と、通訳を介さずとも自然なコミュニケーションができている。当然、我々と同じ国に暮らし、“英語漬け”の毎日を送っているわけでもないのに、である。そこには、皇室ならではともいえる「学習法」があった。皇室では、英語学習の教本選びに特徴がある。皇室ジャーナリストの神田秀一氏が語る。
「1946年から4年間、今上天皇の家庭教師を務めたエリザベス・グレイ・バイニング夫人は、単なる英文の翻訳ではなく、民主主義とは何か、国民と皇室はどうあるべきか、政治と皇室の関係などについて、理解の手助けとなる題材を教材に選びました」
夫人だけでなく、小泉信三・東宮参与は、天皇が皇太子時代の教本に、『ジョージ5世、その生涯と治世』(ハロルド・ニコルソン著)、『あなたと国際連合』(ルイス・フィッシャー著)といった書籍を教材に選び、「帝王学」の修養にも役立てている。
皇太子が学習院中等科時代に使った副読本は、当時世界的ベストセラーとなっていた、経済学者のジョン・ガルブレイス・ハーバード大学名誉教授の『不確実性の時代』の原書だった。
現在のリーマン・ショック以降の不安定な経済情勢を1970年代後半に予測していたかのような、経済学の名著である。少年期の皇太子に求められていた学習の質の高さが窺える。
英語学習それ自体が「最終目標」ではなく、自分の到達地点や興味、専門分野を深める「手段」として叩きこまれているのだ。当然、理解やモチベーションは高まる。
ちなみに天皇・皇太子は今も、古今の欧米の名演説をいくつか諳んじることができるという。「人民の、人民による、人民のための……」で知られる、リンカーン大統領のゲティスバーグ演説もその一つだ。
『子どもをバイリンガルに育てる方法』(ダイヤモンド社刊)などの著者で、英語教育者の木下和好氏が語る。
「将来、世界各国を訪問し、王族や要人と日本の象徴に恥じない関係を築いていくという確固たる目的がある場合、名スピーチや演説を丸暗記するという手法は、洗練された英語を身に付けるには有効ですね」
※週刊ポスト2013年7月12日号