参院選が公示され、全国的な梅雨明けを前に早くも灼熱の選挙戦が始まっている。第2次安倍内閣の発足後初となる国政選挙だけに、いやが上にも盛り上がっている。
争点はなんといっても安倍政権が旗印にしている経済政策「アベノミクス」に対する有権者の評価だ。すでに金融緩和による円安・株高の恩恵を受けた大企業や投資家はいても、好況ムードは限定的。雇用環境や賃金は何ら変わっていないと嘆く働き手は多い。
7月3日に日本記者クラブで行われた党首討論会でも、雇用・賃金格差の改善がないままに物価上昇が進み、消費増税で追い打ちをかければ国民の生活が破綻する――と、アベノミクスの副作用を懸念する野党党首からの厳しい指摘が相次いだ。
「安倍首相の経済政策は国民の期待を膨らますことには成功したが、副作用で物価が上がっている。生活破壊の恐れがある」(海江田万里・民主党代表)
「小泉政権のもとで雇用制度が改変されて今日では非正規社員が35%を占めている。これが国民所得の減少、生活を不安定にしている最大の要因」(小沢一郎・生活の党代表)
「まずは国民の所得を増やして景気回復を図る政治への転換が必要」(志位和夫・共産党委員長)
「雇用と暮らしの立て直しで景気回復。最低賃金1000円以上を実現し、長時間労働を規制しなければならない」(福島瑞穂・社民党党首)
こうした論戦に安倍首相は、「雇用は5月に前年同月比で60万人増え、有効求人倍率も0.9になった。我々の政策で実体経済がよくなり、雇用にもいい影響が出ている」と言い放った。
だが、アベノミクス「第三の矢」となる成長戦略は、数字とは裏腹にさらなる雇用環境の悪化を招きかねない。政治学者で日本大学法学部教授の岩井奉信氏が語る。
「安倍さんは勤務地や職種を限定して採用する『限定正社員』の導入などを規制緩和のひとつの目玉にしようとしています。しかし、こんなことはわざわざ制度化しなくても多くの企業でやっていること。それが政府のお墨付きを得て、“解雇の自由化”が公に認められることになれば、非正規雇用の人たちはますますツラい境遇に置かれることになります」
雇用安定の名の下に、育児休暇3年や女性社員の積極登用といった政策提言もずらりと並べる安倍政権。しかし、「そこにはいつもセーフティーネットの議論が抜け落ちている」と岩井氏。
その究極のテーマが、社会問題にもなっているブラック企業対策であろう。正社員の定着率を増加させようとしている安倍首相自らが、方々からブラック企業の汚名が上がるワタミ前会長の渡辺美樹氏を口説いて参院選の比例代表候補として公認している矛盾もある。
「安倍首相は経団連よりも楽天の三木谷社長が代表をしている新経連に肩入れしているように、既存の財界よりも勢いのある産業や経営者に風を吹かせてもらいたいと思っています。渡辺氏にもカリスマ性や知名度があると見て公認したのでしょうが、まさかここまで反発が出るとは思っていなかったでしょう。
いずれにせよ、『国民所得150万円増』など安倍政権の掲げる成長戦略は“夢物語”ばかりで具体的な方策は何も見えていません。この先、逃げ道をたくさん作らせないためには、野党は選挙後に一つひとつの政策をきびしく評価していく必要があります」(前出・岩井氏)
もの言う野党の存在がどれだけ影響力を持つか。この先、国民の“幸福度”を占う意味でも大事な選挙だといえる。