夏の参院選は、安倍政権の7か月を評価する選挙になる。メディアは「アベノミクス」ばかりに注目しているが、大前研一氏は、ゴールデン・ウィークに行なわれた安倍首相の外遊の成果を高く評価する。以下、大前氏の解説。
* * *
安倍首相の最近の動きで評価すべきは外遊の成果だ。とくにゴールデン・ウィークの動きは素晴らしかった。まず、ロシアのプーチン大統領と友好的に話し合い、資源・エネルギーをはじめ農業・医療・インフラ輸出などにおける経済協力の拡大をテコに北方領土問題、平和条約締結に向けた交渉を加速することで合意したのは大成功だった。
なかでも北方領土問題では、2月に安倍首相の特使としてロシアを訪問した森喜朗元首相の地ならしもあって、非公式だが、面積を半々に分け合う「二等分方式」の話が出たと報じられている。プーチン大統領は、2008年に大ウスリー島を二分することで中国との国境を画定したことや、2010年にノルウェーとのバレンツ海・北極海の大陸棚境界線問題を面積二等分方式で解決した事例を説明したという。
面積二等分なら、歯舞群島、色丹島、国後島に加え択捉島の一部が帰ってくることになる。100点満点の結果ではないにしても、一応、“4島返還”ではある。もっとも、島国・日本にとっては択捉島の中に国境線があるという状態は管理しにくいから、私はむしろ、ここは損して得取れで「とりあえず返還は3島でけっこうです。択捉は共同開発にしましょう」と提案するのがベストだと思う。
これはグアム島やサイパン島の開発で日本が大成功したやり方だ。日本が第2次世界大戦で失ったグアムとサイパンはアメリカの準州・自治領になっているが、両島のホテルなど観光資源の大半を開発したのは日本であり、現在も日本人が数多く訪れる。同様に、択捉の公共インフラ整備などの開発投資案件について日本が半分負担したり、日本人がビザなしで訪問できるようにしたりすれば当面は十分だと思う。
いずれにしても、これまでは1956年の日ソ共同宣言で平和条約締結後に歯舞と色丹の2島を引き渡すことに合意していただけで、ロシア側が実質的に「3島目返還」「4島目返還」を匂わせたのは初めてのことであり、画期的な成果と言ってよい。
ただし、今後の交渉を外務省の事務レベルに任せると再びこじれるだろう。私は、安倍首相がリーダーシップを発揮してロシア専任の特命担当大臣を置き、早急に面積二等分による返還を実現させて平和条約を締結すべきだと思う。
※SAPIO2013年7月号