日本は2004年度からミサイル防衛システムの構築と研究開発を続け、累計1兆円以上の巨額予算を投じてきた。だが、そのシステムで核ミサイルを防げるのか疑問がある。軍事アナリストの、かのよしのり氏が検証する。
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周知のように、日本は2004年度からアメリカと共同で(事実上、アメリカ主導で)、弾道ミサイルを迎撃するミサイル防衛(MD)システムの構築を進めている。
弾道ミサイルを迎撃するには、まずその探知が必要である。そのために、弾頭のように小さな物を探知し、しかも迎撃できる精度で追尾する「Xバンドレーダー」という巨大なレーダーを青森県の航空自衛隊車力分屯基地など全国4か所に設置している。
しかし、それを使っても、探知できるのはミサイルがかなりの高度に上がってからだ。そこで、少しでも早く探知するため、アメリカは人工衛星を使って発射の瞬間から探知するシステムを配備している。本来は日本も自前でそうしたシステムを持つべきなのだが、現状はアメリカからの情報提供に頼らざるを得ない。本来、これ自体が大きな問題だ。
迎撃には2段階ある。まず4隻あるイージスシステム搭載のミサイル護衛艦「こんごう」型からSM-3というミサイルを発射して高高度で迎撃し、それが撃ち損ねた弾頭は地上に配備したPAC-3ミサイルで迎撃する。
ところが、SM-3にもPAC-3にも大きな問題がある。米国防総省は2010年、イージス艦からSM-3を発射して弾道ミサイルを迎撃する実験で命中率は80%以上だった、と発表した。しかしそれは、ミサイル防衛を推進するために実態よりも高めに発表された数字だという見方が多い。
仮に命中率が100%だとしても大きな問題がある。数の問題だ。SM-3は「こんごう」型護衛艦に8発ずつ実戦配備されている(9発ずつ搭載できるが、うち1発は迎撃実験用)。それが4隻分あるから計32発である。つまり、同時に発射される弾道ミサイルの数が32発までならすべて撃ち落とせる。しかし、これでは数が足りない。
北朝鮮はノドンだけでも最大320基(少なくとも200と見られる)、それを発射する移動式発射台も最大50台保有し、それ以外に地下のミサイルサイロや船舶上から発射することも考えられる。つまり、日本が保有するSM-3より多い数の弾道ミサイルを同時発射してくる可能性があるのだ。
もちろん仮に核弾頭を保有していたとしても、その数には限りがある。しかし、核弾頭と通常弾頭を識別することは事実上、不可能である。そうしたことを考えると、SM-3が核弾頭を撃ち落とす確率は50%あるかどうかさえ疑わしい。
一方、PAC-3には射程が短すぎるという大きな欠陥がある。PAC-3とは、地対空ミサイルであるパトリオットの発射システムに、直撃型の対弾道弾ミサイルを載せたもの。本来のパトリオットミサイルは、全長5.18メートル、直径0.41メートル、重量900キロであるのに対し、PAC-3に使われるミサイルは、長さこそ5.2メートルあるものの、直径0.25メートル、重量300キロと小さい。
というのも、湾岸戦争でイラクから発射されたスカッドミサイルを1世代前のPAC-2が迎撃したが、命中率はサウジアラビアで70%、イスラエルで40%(いずれも米軍発表。実際はもっと低いと言われている)にすぎなかった。
そこで、命中率を上げるために改良が加えられたのがPAC-3だ。パトリオットのミサイルキャニスター(ミサイルを格納する装置)に4発のミサイルを収納できるが(1発射機あたりの搭載ミサイル数は全16発)、その分射程も短く、本来のパトリオットミサイルが160キロメートルであるのに対し、わずか15~20キロメートル程度と見られる。
これは致命的だ。例えば、東京の防空に任ずるパトリオット部隊は茨城県土浦、埼玉県入間、千葉県習志野、神奈川県横須賀に配置されているが、その配置で射程15~20キロメートルでは東京全体を守ることはできない。カバーできない広大な“隙間”があちこちにできてしまう。全国で18の高射部隊に配備されているPAC-3を集めても、その隙間を埋めることはできない。
命中率を上げたり、隙間を小さくしたりするためにはSM-3とPAC-3の数を大幅に増やす必要があるが、それには莫大な予算が必要になる。
※SAPIO2013年7月号