巷ではスターバックスやドトールといった低価格のセルフ式のカフェをよく見かけるが最近、ちょっと高めの価格設定でコーヒーを提供している「椿屋珈琲店」などの喫茶店が人気を集めている。その理由はどこにあるのだろうか?
椿屋珈琲店は、有楽町や新宿など都心部に展開し、コーヒー1杯が1000円近くする高級珈琲チェーンだ。ホームページにはテーマがこんなふうに書かれている。
「銀座の古きよき時代の洋館、コンセプトは脱日常感。大正時代をモチーフにしたシックなインテリアと、静かに流れるクラシック音楽が落ち着いた大人の雰囲気を醸し出します」
まさに“大人向けカフェ”。家具類は特注品で、カップはロイヤル・コペンハーゲン製、コーヒーはサイフォンで入れる本格派だ。
外食ジャーナリストの中村芳平さんはこう語る。
「椿屋珈琲店に入って大正ロマンあふれる内装、家具、銀製のスプーンなどの食器類を使うと、別世界にやって来たという高揚した思いになる。中でも大正時代のカフェの女給さんそのままの黒のスカートに、あのたっぷりした真っ白なエプロンを着用したウエイトレスが、にっこり微笑んでサイフォンコーヒーを注いで、残った分をテーブルに置いていくパフォーマンスは最高。
サービス業のおもてなしの心というのはこういうものだということを教えてくれているような気がする。客単価が約600円という銀座ルノアールが伸び悩んだのに、客単価が1000円を超す椿屋珈琲店の伸びが止まらないのは、中途半端を排除し、とことんまで本物のカフェを追求したからではないか」
こうしたゆっくり過ごせるタイプの喫茶店は数年前までセルフ式の店に押されていたがここ最近、息を吹き返している。椿屋珈琲店(運営は東和フードサービス)は2012年5月〜11月の既存店売上高は前年同期比で2.5%増、2013年4月期で4期連続増収となった。店舗数も2年以内に約2倍にするとしている。
名古屋発の「コメダ珈琲店」も関東にも進出するなど出店ラッシュが加速中だ。5日には鳥取店がオープンしたが、今後数年で、現在の約500店舗から約1000店舗に拡大させることを目指している。
「コメダも店内に雑誌や新聞を置き、ゆったりしたソファで落ち着いて過ごせる店作りをしています。こうした喫茶店のターゲットは、若い人たちではなく、40代から団塊の世代です。彼らはセルフ式の客とはニーズが異なり、少々料金が高くても、ゆっくり時間を過ごしたり、おいしいものを食べようという意識が強い。彼らをターゲットに、店側は店舗数を増やしているのです。今後、アベノミクスにより景気回復が進んでいけば、 こうした喫茶店のマーケットはさらに拡大するのではないか」(経済ジャーナリスト)
外食業界では、デフレによる低価格路線からの脱却を目指す動きが顕在化し始めているが、喫茶店チェーンでも“異変”が起きていると言えそうだ。