参院選もたけなわだが、有権者と候補者の間で選挙の持つ意味に大きな乖離が生じているのではないか。
有権者にとって選挙は国の針路、国民の生活をどの党に託すかという選択だが、候補者には選挙が「就職活動」としか見えていない。参院選はわずか「17日間の選挙戦」で当選すれば6年間議員の身分が保障される。
しかも、歳費(給料)の年間約2200万円(2014年まで2割カット)、それに「文書通信交通滞在費」が年間1200万円支給される。これは非課税でありサラリーマンの課税所得に換算すると約2666万円に相当する。加えて、選挙区との通勤に使うJRの無料パスや無料航空券が平均で181万円、外遊のための議員旅費が約55万円、合わせて約5000万円だ。6年間に得られる収入はサラリーマンの生涯賃金に匹敵する3億円にのぼる。
ましてや今回の参院選は自民党の一人勝ちが見えている“消化試合”で、31の1人区のうち激戦は沖縄、岩手などごく一部にすぎず、2人区、3人区などの選挙区の自民党候補の大半は戦う前から当選が確実視されている。これほど楽な“就職活動”はないはずだ。非改選組の自民党参院議員がこんな舞台裏を明かす。
「民主党政権下の前回の参院選は当選したとはいえ大変な戦い。手足となってくれる自民党の衆院議員たちが落選中だったから、会合を開いてもらうにも金がかかった。しかし、今回は衆院議員がみんな当選したので、その後援会組織に乗って選挙をすればいい。選挙運動は地元の衆院議員に順番に人を集めてもらってそこで挨拶するだけ。楽な選挙だから候補者はいかに金を残すかに腐心しており、こっちも本気で支援する気にならない」
参院の比例議員には選挙費用にも特権がある。衆参の候補者は、選挙カーのレンタル料やガソリン代、運転手の人件費やポスター制作費などの選挙活動は税金で賄われる。ほとんど知られていないのが、選挙期間中(公示から投票日の5日後まで有効)、選挙区内のJR、私鉄に無料で乗れる「パス券」(特殊乗車券)がもらえることだ。これは候補者本人ばかりか選挙運動員も利用できる。
衆院や参院の選挙区候補は特急や急行に乗る際には特別料金分を負担しなければならず、選挙区内の移動も、距離はたかが知れているためメリットはそれほど大きくない。
ところが、選挙運動のために全国の支持団体を回る参院の比例代表候補だけは、JRの特急や新幹線、航空機にも乗り放題、もちろん候補者本人だけでなく選挙運動員も無料だ。候補者が利用した運賃は鉄道や航空会社から国に請求され、前回参院選では約1億5000万円が使われた。ちなみに衆院の比例代表候補にはこの特権はない。
特定の業界を対象に費用は税金持ちで楽な選挙活動を行ない、一般有権者の票の下駄を履いて当選し、議員になると業界のために働いて高給をもらう。
※週刊ポスト2013年7月19・26日号