7月某日の昼下がり、都内商社で働くAさんは肌寒さを感じて、事務所のエアコンの設定温度を確認した。表示はなんと「24℃」。昨夏は「28℃」を義務づけられていたはずだが……。
「今年は会社からも節電をそれほど強制されない。そのためか、寒いくらいの時があるんですよ。昨年までは室内の照明も間引いて暗かったけど、今年は煌々としています」(Aさん)
確かに、この夏は「節電」という言葉を目にする機会が減った。政府は今年も7月1日から9月末の3か月間、平日の午前9時~午後8時の電力使用を控えるなど、家庭や企業に節電を求めてはいるが、そのトーンは低い。
思い起こせば昨年の今頃は、電力不足を煽りたて、まさに「恫喝」ともいうべき節電キャンペーンが行なわれていた。
特に凄まじかったのは、大飯原発3、4号機(福井)の再稼働を巡って揺れていた関西電力管内だ。
大阪府合同庁舎の壁には「この夏、節電待ったなし!」の垂れ幕がかかり、関電社員や大阪府職員が街頭に立って「節電」PRに躍起だった。関電は関西広域連合と連携し、電気使用量を前年夏から15%削減を達成した世帯を対象に、抽選で豪華ホテルの宿泊券やランチ券をプレゼントする「節電トライアル宝くじ」を企画するなど、あの手この手で節電を訴えていた。
今年の街の不自然さにお気づきの人は多いはずだ。なぜなら、そのキャンペーンが忽然と姿を消したのだから。
関電本店の壁からは、昨年の今頃掲げられていた巨大な「節電啓蒙垂れ幕」が消えた。同社は、今年は節電イベントも一切行なわないという。理由について関電はこう話す。
「昨夏とは異なり、大飯原発も再稼働しており、電力需給の見通しも立っているので、昨年ほどのPRの必要性はないと考えています」(広報室)
政府が求める節電も「無理のない範囲で」という曖昧なものとなった。昨年までは関電管内で15%、北海道7%などとされた、具体的な「数値目標」はない。
政府や電力会社が不気味なほど静かになった理由は、いたって単純である。実はあれだけ大騒ぎした昨年、電力は余裕で“足りてしまっていた”のだ。
昨年9月、関電が夏の電力供給に関する試算を公表した。詳細は省くが、「大飯原発の再稼働がなくても、管内で待機中の火力発電所を動かせば、電力には余裕があった」というものだった。今年の政府の検討会合でも、「節電の数値目標を設定しなくても、今夏の電力は需要が供給を全国平均で6.3%も上回る」という結論が出た。
※週刊ポスト2013年7月19・26日号