2020年五輪開催に立候補している3都市についての評価報告書が公表されて以来、東京五輪が実現しそうだという見方が強まっている。報告書が最高評価だったと報じられていることが大きく影響しているが、9月7日に行われる国際オリンピック委員会(IOC)総会での投票がまだ残っているのに、なぜ、これほど楽観的な論調が目立つのか。
「もちろん、報道ですからマイナス面にも触れますよ。それでも開催してほしい本音が漏れてしまう(苦笑)。というのも、東京五輪開催に運動部の未来がかかっているからです。昔に比べればスポーツの重要性は世間に認められてきたと思いますが、報道では社会部や政治部などに比べまだまだ立場が弱い。人手や予算を削るときは、まず運動部から。でも、地元で五輪開催となれば状況が変わるだろうと期待しているんです」(新聞社運動部デスク)
実際に、運動部へ配属される新人も予算も減るばかりだという。海外出張はめっきり減り、ビジネスクラスで移動していた時代を覚えている世代はもういない。今や移動はすべてエコノミークラスで複数の取材を行う過密スケジュールを組み、ようやく出張を決裁するかどうか検討される。十年後には運動部が廃止され、通信社の配信でスポーツ面を構成するようになるかもしれないと恐れながら仕事をしているというのだ。
悲観的な未来を吹き飛ばしてくれそうなのが、2020年東京五輪開催だ。地元開催となれば作成する記事の絶対量が増え、人も予算も確実に増える。とはいえ、東京が実際に開催都市に選ばれるには、本来、求められている理由が足りないと五輪を取材する者なら誰もが認識している。
「五輪開催の理念を考えたら、普通ならイスタンブールが最有力です。アジアとヨーロッパにまたがり、東西文明が交流する街らしくスローガンも『Bridge Together(ともに橋を架けよう)』です。イスラム圏“初”というのは、リオデジャネイロが南米“初”を高く評価されたようにIOC好み。比べると、東京の海外向けスローガン『Discover Tomorrow(未来をつかもう)はわかりづらい」(五輪担当記者)
それでも、評価報告書で東京には経済力や運営などほとんどマイナスな指摘がなかった。懸念されていた東京電力の供給能力も、東日本大震災の影響から回復しており、さらに改善するだろうとプラス評価をされている。デモやテロに苦しむイスタンブールと財政に不安を抱えるマドリードと比較して、もっとも失点が少なかったため海外でも「東京が先頭を走っているようだ」と報じられた。
だが、五輪開催都市をめぐるつばぜり合いだけでは、9月にどのような結果になるのか測れないという見方も強い。
「ブエノスアイレスで開催されるIOC総会では、五輪開催都市だけでなく次期IOC会長や、2020年実施競技の最後の一枠も決まります。これらすべてのバランスをとろうとするのではないかという予測もあるんです」(前出・五輪担当記者)
次期IOC会長への立候補予定者は6人。最有力はドイツのバッハ副会長だが、彼が会長になる場合、全体のバランスをとるために2020年五輪はヨーロッパ以外になるのではないかというのだ。
「イスタンブール、または東京が2020年五輪開催となったらスペインで人気が高いスカッシュは選ばれない。逆にプエルトリコやシンガポールからの候補者が会長に選ばれるなら、マドリードが開催地になる。そうすると、2月に中核競技から外されて世界中で反対運動が起きたレスリングが、実施競技からも外れてしまうかもしれない」(前出・五輪担当記者)
いずれにせよ、IOCの決定はいつも予測不可能だ。2012年五輪はパリが最有力だったが、最終決定直前のプレゼンテーションでロンドンが大逆転を起こした。2016年もシカゴが有力と言われ続けたが、リオデジャネイロが逆転した。
「2016年五輪開催が決まっているリオデジャネイロは、治安の悪さが懸念されていましたが、評価報告書で劣勢を覆して開催地となった。東京も同じ流れに乗りたいですね」(JOC関係者)
約2か月後、アルゼンチンのブエノスアイレスで東京はパリと同じ運命をたどるのか、リオデジャネイロのように選ばれるのか。日本マスコミの運動部も、固唾をのんでゆくえを見守っている。