夏の風物詩といえばスイカに風鈴、海水浴などさまざまなものが思い浮かぶだろうが、いまやそれに並ぶ存在となったのが野外での音楽イベントだろう。夏に行われるものが多いことから夏フェスとも呼ばれるそれらのイベントは、もともとフォークソングの野外イベントから始まった。1980年代にロックフェスティバルが勢いをもちはじめ、2000年ごろからはダンスミュージックを中心に踊る楽しみを分かち合うイベントが加わっている。
ダンスミュージックが盛んになるにつれ、世界のさまざまな地域から新しい音楽が紹介されてきた。近年では、中南米からの独特なリズムが新しいものとして注目を集めている。そして中南米といえば、人が集まって酒を酌み交わすときは必ず音楽にあわせてダンスを踊り、老若男女問わずに楽しむことでも知られている。
出張でコロンビアを訪れた40代の会社員男性は、食事のために寄ったパブで店員と雑談中に今日が誕生日だと話したところ、居合わせた客に「楽器を持ってくるから待っていろ」と告げられた。
「当たり前ですがそこにいた誰とも知り合いじゃない。でも、そのパブの客どころか店の前を通りがかった人にも総出でハグされおめでとうと言ってもらいました。そして、一晩中、歌い踊り乾杯を繰り返して誕生日を祝ってくれたんです。僕が受けたお祝いは、あちらでは特別なことではないそうです。底抜けに陽気で幸せな習慣だと思いますが、残念ながら日本ではそうはいかないですよねえ」
しかし音楽とダンス、お酒を一緒に楽しむ中南米のような雰囲気を日本にいながらにして味わえるのが夏フェスだ。そのひとつ、渚音楽祭をのぞいてみた。
6月29日に東京・調布市の味の素スタジアム特設ステージで開催された渚音楽祭は、ダンスミュージックを中心とした都市型フェス。2003年から続いているが、今回は2年ぶりの野外での開催だったため、開放的な空間でダンスミュージックを存分に味わいたい多くの人でにぎわっていた。
そこで、毎年複数のフェスに参加し、今年だけですでに3回目という映像制作会社勤務の30代男性を発見。夏フェスを満喫する方法を聞いたところ、お酒は欠かせないという。
「コミュニケーションにお酒はとても便利なんです。ひとりでフェスにやってきても、お酒を介してどんどん友だちが増えますよ。初めて会った人とも『かんぱーい!』とやるのが不自然じゃないのが夏フェスの良いところ」
夏フェスを満喫している彼が手に持っていたのは、黄色い屋根が特徴的なメインステージ前ブースで売られていた「キリン カリブーン」。Gravityfreeによる特徴的なイラストに彩られた缶に入ったカクテルは、ラムをベースにグレープフルーツとパイナップルの2種類がある。販売ブース中央のモニターでは、CMと同様ボブカットにティアドロップのサングラス、白いジャケットでキメたカリブーン共和国の大スターMr.CRBが歌い踊っていた。
Mr.CRBと同じボブカットにサングラスをかけた販売員にお客さんの様子を尋ねると
「今日は天気がよくて暑いからでしょうか、より南国を思わせるパイナップルを選ぶお客さんが多いです。果汁入りカクテルではありますが、飲んだあとスッキリしているからか、意外に男性のお客さんも多いですよ」
夏らしく華やかに花冠を頭に載せた女性たちも、カリブーンの特徴的な缶を片手にダンスミュージックを楽しんでいた。30代自由業の女性は、ラムは苦手だがカリブーンは飲みやすいという。
「facebookで友だちが『飲んだよ』と缶の写真を出していたのを見て、コンビニでグレープフルーツの方を買って家で飲んだんです。美味しかったからまた飲もうと思っていたところに売っていたので、今日はパイナップルにしました。野外フェスでお酒を飲むと、開放的だから爽快な気分になって、家で飲むよりもたくさん飲めるのがうれしい。日本じゃないようなハイな感じもしてきますね」
青空のもと、カリブーンのように南国気分を味わえて美味しいお酒が、夏フェスの楽しさをますます高めてくれているようだ。