ネット上で囃し立てられた「ブラック企業」批判が、一般のメディアにも広がり、参院選のテーマにまで浮上している。
なぜブラック企業叩きが過熱するのか。ネット上だけではなく、影響力の強い大手企業の経営者や、それに寄り添う大手メディアがこのブームを作り出しているといっていい。
例えば6月26日の日経電子版で、伊藤忠商事前会長の丹羽宇一郎氏がブラック企業批判を展開した。
〈収益第一で社員を使い捨てにする──。これがブラック企業の共通した特徴のようです〉〈「企業の社会的責任」の考え方がここまで変わってきたのかと驚きました〉。そのうえで丹羽氏は、雇用の確保と〈社員が安心して働ける環境を提供すること〉を求めた。
しごくまっとうな指摘である。だが、それを実行できる企業がどれだけあるのか。新興企業の実態に詳しいジャーナリストの伊藤博敏氏が指摘する。
「大企業のサラリーマン経営者がブラック企業を批判するのは簡単です。自分たちは既得権益で収益を上げ、高い給料、充実した福利厚生、上質な労働環境を確保しているんですから。しかし、ベンチャー企業はそうはいかない。もちろん全肯定はできないが、競争力を高め、成長を最優先しなければ一流企業には這い上がれず、淘汰される」
『若者を見殺しにする国』(朝日新聞出版刊)など、若者の労働環境に詳しいフリーライターの赤木智弘氏が続ける。
「いわゆるホワイト企業も、下請けの中小零細企業の上に成り立っている。自社の社員の福利厚生は充実させる一方で、他社には無理を強いているわけです。ブラック企業だけを批判して済む話ではない」
※週刊ポスト2013年7月19・26日号