7月7日、天皇皇后両陛下は皇太子妃・雅子さまとともに東京・池袋の東京芸術劇場で催された「学習院OB管弦楽団 第67回定期演奏会」を鑑賞された。両陛下が学習院OB管弦楽団のコンサートに足を運ばれることは極めて珍しく、異例のことといえるが、その理由は、東日本大震災の大津波で生き残った岩手県陸前高田市の高田松原の“奇跡の一本松”だった。
「管弦楽団の一員として、演奏会に参加された皇太子さまは、“奇跡の一本松”で作られた『ツナミビオラ』で演奏されたんです。一本松に深い思いを寄せられている両陛下は、実際にその音色をお聴きになりたいと、お出ましになられたのです」(宮内庁関係者)
皇太子さまは、シューベルトの交響曲「未完成」をこのビオラで演奏された。弾き終えると、皇太子さまは立ち上がり、ステージの最前列へ。そしてビオラの裏側に描かれた“奇跡の一本松”の絵を観客に披露された。これには会場から一段と大きな拍手が巻き起こり、両陛下、そして雅子さまも惜しみない拍手を送られていた。
「ビオラには、表板と裏板をつなげている“魂柱”という円柱状の小さなパーツがあります。これは弦楽器の音色を決める、まさに心臓部といえるパーツなんです。今回、皇太子さまが演奏されたビオラの“魂柱”には“奇跡の一本松”が使われているんです」(製作関係者)
皇太子さまによる“奇跡の一本松ビオラ”の演奏が実現したのには、美智子さまの知られざるご尽力があった。
今年1月17日、美智子さまは東京・千代田区の紀尾井ホールで行われたメキシコ人バイオリニスト、アドリアン・ユストゥスの『ヴァイオリン・リサイタル』を鑑賞された。実は、このコンサートでも、「ツナミバイオリン」による演奏が披露されていた。
演奏会終了後、美智子さまは「ツナミバイオリン」や今回、皇太子さまが使われたビオラの製作者である中澤宗幸さんと歓談された。『クラシックフォージャパン』の代表である中澤さんは、東日本大震災以後、『千の音色でつなぐ絆』というプロジェクトを立ち上げている。
「震災が起こってから、中澤さんは“自分は被災地のために何ができるだろうか”と考え、津波で流されてしまった家の柱や梁などを材料として弦楽器を作ることを思いついたんです。その楽器を1000人の演奏者によって全国各地をリレー演奏し、音色を聴いた人々、そして演奏会に携わった人たちによって、震災の記憶を将来に伝え、風化させないようにという願いからスタートしたプロジェクトです」(プロジェクト関係者)
中澤さんは、美智子さまと歓談された際、素直な気持ちをこうお伝えしたという。
「ツナミバイオリンを使った演奏会を、もっと多く開催して、被災地の人々を少しでも励まし、震災の記憶を将来に伝える活動の輪を広げたいと思っています。どうしたら、この思いが実現できるでしょうか」
そんな中澤さんの思いに共感された美智子さまは、その場でこんなことをおっしゃったという。
「それなら皇太子がビオラを弾きますから、中澤さんの楽器を弾いてもらいましょう」
思いがけない美智子さまのお言葉に、中澤さんは感激ひとしおだったという。
「中澤さんは3か月ほど前に皇居に招かれて、皇太子さまに実際にお会いしました。そこで“皇太子さまがツナミビオラを弾いてくだされば、もう一度、日本中が復興への思いを持ってくれるはずです”といった話をしたようです。もちろん、皇太子さまもプロジェクトに賛同してくださいました」(前出・プロジェクト関係者)
※女性セブン2013年7月25日号