尖閣諸島をめぐる日中の対立は現在も解決の糸口は見えない。問題の発端はどこにあったのか? 大前研一氏は以下の指摘を行なう。
* * *
歴史的事実に即して見れば尖閣諸島が日本固有の領土であることは間違いないが、この問題は一度、もつれた糸をほぐすために日中間の高いレベルで話し合いのテーブルを用意すべきだと思う。ここで議論するのは「領土問題」ではない。あくまでも目的は「もつれた経緯を整理すること」である。
これまでにも指摘してきた通り、日中は田中角栄と周恩来、それに続くトウ小平の時代に巨額の経済的支援と引き換えに国交正常化を実現し、尖閣問題については繰り返し「棚上げ」を密約として確認してきた。
ところが昨年、石原東京都知事(当時)が、尖閣諸島のうちの3島(魚釣島、北小島、南小島)を地権者から購入して漁船の避難港などを整備する方針を打ち出し、購入資金として国民から約15億円の寄付金を集めたことで事態が「棚卸し」された。
私の得ている情報では、どうやら当時の野田政権はその前後に初めて、日中の「棚上げ密約」を知ったようだ。それで慌てて「東京都が購入すると中国を怒らせてしまう」と考え、密約を守るために地権者から20億5000万円で購入して国有化したというのが真相だ。その結果、(中国の望み通り)尖閣には港も灯台も整備されなかった。
民主党政権の狼狽ぶりもみっともないが、もっと悪いのはこの政策決定プロセスを日本政府が中国にきちんと説明できなかったことだ(国内的にも説明してこなかった)。中国の次官クラスには伝えたようだが、常務委員から「政府が一知事を抑えられないはずはない」「日本政府の話は嘘だ」という意見が出て認められなかったと中国政府の人間から聞かされた。
※SAPIO2013年8月号