中国では1980年代、すでに引退しながらも、中国共産党トップの胡耀邦・総書記や趙紫陽・総書記ら最高幹部を更迭してしまうなど、強い政治的な発言力を持つ8人の元老グループによる政治の私物化が行われていた時期があった。それから30年が経ち歴史は繰り返すというわけで、いま「新八老」グループの存在がネット上で話題を呼んでいる。
かつての「八老」は時期により2つのバージョンがあり、まずは最高実力者だったトウ小平、保守派の重鎮の陳雲・元党政治局常務委員、李先念・元国家主席、トウ氏の側近だった楊尚昆・元国家主席、保守派の彭真・元全国人民代表大会(全人代)委員長、周恩来夫人のトウ穎超・元中国人民政治協商会議(政協)主席、ともに国家副主席を務めた薄一波と王震──の8人。
もう一つのバージョンはトウ小平、陳雲、楊尚昆、薄一波、彭真までは変わらないが、あとの3人は習近平・国家主席の父親の習仲勲・元副首相、宋任窮・元党政治局員、万里・元全人代委員長。
いずれのバージョンでも、ほとんどが思想的には保守派で、改革的な思想傾向を持っていたのは習仲勲くらいなものといわれる。
八老が強い実権を持っていた時期は政治的、思想的にも極めて保守的な傾向が強く、1986年末から1987年初めに吹き荒れた学生による民主化要求運動は潰され、学生らを擁護した胡耀邦総書記は失脚に追い込まれた。
1989年の天安門事件でも、トウ小平や楊尚昆を中心に保守的な意向が強く働き、学生らの民主化運動では軍が動員され徹底的に鎮圧され、多くの犠牲者を出した。胡耀邦同様、学生らを支持した趙紫陽総書記も解任され、トウ氏ら八老の支持を受けた江沢民が総書記に指名された。
それから20年以上も経過したいま、新たな八老が取り沙汰され、ネット上で話題になっている。
中国情報専門のニュースウェブ「多維新聞網」によると、その8人は江沢民に加えて、胡錦濤・前主席、李鵬・元全人代委員長(元首相)、万里、喬石・元全人代委員長、呉邦国・前全人代委員長、朱鎔基・元首相、温家宝・前首相。
このなかで注目されているが政治的に対立している元最高指導者の江沢民と胡錦濤の両氏だ。江沢民は上海閥の総帥で、習主席の後見役的な存在だけに、習主席にとっては政治的に重要な人物だ。しかも、現在、政治局員には胡錦濤の腹心だった中国共産主義青年団(共青団)の出身者が多く、習主席にとって、胡錦濤は目の上のたんこぶになる可能性がある。
習氏としては、できればあと4年半後の第19回党大会が開催される2017年秋までは江沢民に残ってもらいたいところだ。また、高齢だが上海閥に連なる呉邦国、朱鎔基も習主席にとって頼みの綱であり、今後の政治展開、権力闘争は新八老の寿命争いと密接に関わってくる可能性が強そうだ。