元CIA(米中央情報局)局員のエドワード・スノーデン氏がアメリカ政府がインターネットを通じて個人情報を収集していると暴露して以来、世界中に広まった波紋がおさまらない。だが、この問題は今に始まった話ではないという大前研一氏によれば、個人が情報収集を防ぐ手立てはないという。その理由について、大前氏が解説する。
* * *
今や携帯電話やスマートフォン、Wi-Fiなど無線LANによる通話・通信はすべて傍受されているといっても過言ではなく、有線LANであっても、パソコンから出る微弱電波から情報収集できる技術が米国企業などによって開発されている。
さらにCIAなどはデータマイニング技術(収集したデータを解析し、その中に潜む項目間の相関関係やパターンなどを探し出す技術)を活用し、テロリストが用いるキーワードを各国語で分類して、それを頻繁に使っていた重信受刑者のような人物を追跡・監視している。ただ、4月に起きたボストン・マラソン爆弾テロ事件のように、一度は追跡・監視していながら、膨大な人数から対象を絞り込んでいく過程で漏れてしまった例もある。
これから企業や個人は、いかにして自分の情報を守るか、より真剣に考えなければならないわけだが、どれほどセキュリティを高めても、アメリカ政府の前では無力に等しい。
世界のデータの8割以上がアメリカを経由するといわれているからで、アメリカのIT企業が政府の要求を拒むことができない以上、アメリカ政府による情報収集を防ぐ方法はないのである。それに、アメリカと同様の情報収集活動は、イギリス、ロシア、中国などの諜報機関も当たり前に行なっている。だから、個人情報が収集されていること自体、もはや“ノー・ニュース”なのだ。
そもそもアメリカは、こうした情報監視網がなければ安全が確保できない国である。とくにホームランド・セキュリティ(自国防衛)が最大の目的となった9.11以降は、多くの国民が安全に暮らせるのであれば、そのための情報収集活動は政府の役割であり“必要悪”とみなされている。
※週刊ポスト2013年7月19・26日号