「土用の丑の日」といっても、鰻の価格が高騰して手が出ない人も多いだろう。ではどうするか。大人力コラムニスト・石原壮一郎氏が、「いじましいけど大人らしい丑の日のやり過ごし方」を伝授する。
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今年の土用の丑の日は、7月22日(月曜日)と8月3日(土曜日)。土用の丑といえば「鰻を食べる日」ということになっています。江戸時代に蘭学者の平賀源内が、夏場に客が減ってしまう鰻屋に相談されて、「本日土用丑の日」というキャッチコピーを考えたのが、土用の丑の日に鰻が広く食べられるようになったきっかけだとか。
なんせ暑い時期だけに、栄養価の高い鰻を食べると元気が出そうな気がします。そんな鰻のパワーと鰻業界の努力の甲斐あって、「土用の丑の日=鰻」というイメージはすっかり定着しました。ただ、ここ数年、ニホンウナギ(ジャポニカ種)の稚魚の値段が高騰し、ちゃんとした鰻屋は簡単に足を踏み入れられない場所になっています。
牛丼チェーンなどで輸入物の安い鰻を食べることもできますが、それでお茶を濁すのも何だか寂しい話。じつは、丑の日に食べるといいとされているのは、鰻だけではありません。もともとは、頭に「う」のつくものを食べて精を付け、無病息災を祈る風習がありました。梅干し、瓜、うどんなどがよく食べられていたそうです。
土用の丑の日に無理して鰻屋に行っても、混んでいるのは確実。しかも、一日で大量の鰻が消費されるので、どうしても質が落ちるとも言われています。いっそ今年の丑の日は、鰻以外の「う」のつくものを食べてみるのはどうでしょうか。
たとえば、意中の女性を「今日は土用の丑だから、うどんでも食べに行こうか」と誘ってみます。当然「えっ、うどん?」という怪訝な反応が返ってくるはず。そこですかさず、じつは丑の日というのは……というウンチクを披露すれば、教養の深さとともに、世間に付和雷同せず我が道を突き進む頼もしさを感じ取ってくれるでしょう。
うどんを食べているときに、つい「わざわざ鰻を食いに行く奴の気が知れないね」と鰻を否定したくなりますが、それは危険。「うなぎもいいけど、うどんもいいね。うどん業界も、もっとアピールすればいいのに」と鰻の立場を尊重しつつ、うどん業界の心配をしてあげることで、人間としての幅の広さや大人の粋をにじませたいところです。
誘う相手がいない場合は、ひとりで回っている寿司屋に行って、ウニを食べながら「土用の丑の日だからといって安易に鰻に群がっている能無しども」に勝った気になるのはどうでしょうか。牛肉(うしにく)も「う」がつくので、牛丼チェーンで普通に牛丼を食べながら、リーズナブルな鰻丼を食べているほかの客を横目で見ながら、心の中で「キミたち、もっと知恵を使いたまえ」と呟くのも楽しそうです。
そんなふうに、あの手この手で土用の丑の日を満喫し、夏を乗り切りましょう。いじましい努力に見えるかもしれませんが、大人の日常に小さな幸せをもたらしてくれるのは、いじましい努力の積み重ねです。