【書評】『本能寺遊戯』高井忍/東京創元社/1785円
【評者】堀池茉莉(ブックファースト梅田店)
「歴女」をご存じですか? 2009年の流行語大賞でトップ10入りしたこの言葉、初期には「オタク的嗜好を持つ歴史好きの女性」という意味合いが強かったのですが、最近では「歴史好き、または歴史通な女性全般」を指すこともあるそうです。
観光で歴史的建造物や城郭を観に行く若い女性が増えており、戦国武将を取り入れた観光案内に力を入れる自治体も多くあります。「歴女」という言葉だけが発端ではありませんが、歴史に興味のある女性が増えてきていることは確かでしょう。
今回おすすめする『本能寺遊戯(ゲーム)』は、自称歴女の女子高生3人が主人公の歴史ミステリーです。歴史ミステリーとは、歴史上で解明されていない謎がからんだ事件を現存する資料等から解きほぐし、事件を解決するというジャンルです。
本書は、豪華商品を得ようと歴史雑誌に斬新な新説を投稿する3人の歴女が歴史談議に花を咲かせる、歴史うんちくに溢れた連作短編集なのですが…これがなかなか面白いのです。喫茶店の隣の席で盛り上がっている女の子の話を、耳に入ってくるがままに、つい聴いているような感覚で読み進められます。
短編ごとに、ヤマトタケルの最期を議論したり、大奥の権力者・春日局のサクセスストーリーを取り上げたりと、読み手を飽きさせない豪華なラインナップ。3人娘のひとりで、文献資料も読み込む、どっぷり「歴女」の扇ヶ谷姫之が、留学生のナスチャのためにきっちり解説してくれる流れになっているので、歴史に詳しくなくても心配はいりません。歴史を特集したバラエティー番組のように、初心者でもさくさく読めてしまうのが、本書の魅力です。
学説として取り上げるには突拍子もない考察は、歴史小説や時代小説にはない面白さです。物事を多くの視点からとらえ、既存の考えにとらわれない新説が短編の数だけあり、さらにミステリーならではの意外な結末が最後に待っている。読むと、歴史の持つ魅力に引きこまれることうけあいです。
ミステリーは好きだけど、歴史物は全然。時代劇はテレビで見るけれど、読むのはちょっと。そんなかたにぜひ読んでみていただきたいこの作品。新しい読書体験に、歴史ミステリーはいかがですか?
※女性セブン2013年8月1日号