参議院選挙で自民党が大勝し、国会のねじれ解消が予想されるなかで、自民党の「利権誘導政治」は走り出している。最大のプロジェクトといわれるのが、麻生太郎・副総理兼財務相の地元、福岡への「国際リニアコライダー」(ILC)の誘致だ。
これは福岡、佐賀両県にまたがる脊振(せふり)山系の地下に全長30~50キロの直線トンネルを建設し、両端から電子と陽電子を発射して光速で衝突させてビッグバン状態をつくり出し、“宇宙誕生”の謎を解明するという超大型実験施設だ。国際宇宙ステーション、熱核融合実験炉と並ぶ3大国際プロジェクトとされ、誘致した国が1兆6000億円といわれる総事業費の半分以上を負担することになっている。
自民党福岡県連の地方版公約には、ILCの誘致が筆頭に掲げられ、地元政財界が総力をあげた陳情活動を展開中だ。
その先頭に立っているのが、麻生氏の実弟で九州経済連合会会長に就任したばかりの泰氏(麻生セメント社長)。7月3日には、地元企業の経営者らとともに自民党本部を訪ね、ILC建設推進議員連盟の会長を務める河村建夫・自民党選対委員長に誘致を陳情した。麻生副総理には3月に小川洋・福岡県知事らが直接誘致を要請している。
ILC誘致には福岡の他に岩手県(北上山系)が名乗りをあげているが、福岡は相手にしていない。
「東京の山手線全線(約34キロ)を地中化するより長いトンネルをつくるのだから、土木事業やセメントの消費量だけでも大変な規模になる。完成すれば1万人近い研究者や家族が海外から移住や出張してくるから経済波及効果も大きい。大量の電気を要するから原発再稼働のテコにしたい九州電力も誘致に目の色を変えている。
国際的なライバル都市はなく、あとは財務省が予算をつけて日本が正式に誘致に名乗りをあげれば決まる。民主党政権時代なら小沢一郎氏の地元、岩手が有利だったかもしれないが、政権交代で今や麻生先生が担当の財務大臣、弟の泰さんが地元財界代表というポジションにある。地元は岩手に負けるはずがないと麻生兄弟の政治力に期待している」(地元財界関係者)
地元経済界が巨大公共事業を期待するのはどこも同じだが、セメント会社の社長が大量のセメントを使う事業の誘致を政府に陳情し、その予算をつける立場にあるのが実兄の財務大臣というのは“我田引水政治”極まれりである。
※週刊ポスト2013年8月2日号