このままでは、日本の政治状況は「大政翼賛会」となってしまうのではないか……そんな危惧を抱く4人の政治家OB、村上正邦氏(元自民・80歳)、矢野絢也氏(元公明・81歳)、平野貞夫氏(元民主・77歳)、筆坂秀世氏(元共産・65歳)が立ち上がった。憂国の4人の長老による座談会をお送りする。
筆坂:この前の都議選でも今回の参院選でも、キーワードは「安定」だと思う。民主の失敗が大変な混乱を引き起こしているから、今度は安定した政党らしい政党が選ばれている。だから歴史のある自民、公明、共産党が伸びている。
それと、僕のゴルフ仲間の話なんだけど、自民には票を入れたくないが、かといって野党にもろくなのがない。「維新と共産ではどっちがいいと思う?」と聞かれたんですが、維新と共産って右と左で対極にある政党じゃないか(笑い)。でも有権者には矛盾がないんだよね。もう今さら、資本主義か共産主義かなんていう争いはまったくないし、維新から自民、共産までの間に壁はないんだよ。
平野:それは先生だけだよ(笑い)。
村上:筆坂先生、オレの友だちは「やっぱり自民がいいんや」というんですわ。それでオレが「えー、自民党」っていったら「あんた元自民党だろ」って怒られた(笑い)。もう共産党に入れたいくらいだよ。
しかし自公連立で政権が安定するといっても、ここに元公明党の人がいるけどさ、なんで自民と一緒にいるの? 公明党は自民の暴走に公明がブレーキをかけているから安定しているというが、安倍さんの政策の真骨頂は憲法改正で、公明党は反対しているでしょ。
矢野:……。
村上:集団的自衛権だって、真っ向から反対なんだから、公明党は。
矢野:オレ、これに返事せんでええやろ(笑い)。
平野:政権の「安定」にもいろいろあって、極端にいえば一党独裁が一番安定しているわけで、公明党が自民にあまり同調したらファシズムにつながるんですよ。衆参のねじれだって国民が望んだからそうなっているわけで、それをマスコミは「安定」だとか「ねじれ解消」だとかいって大政翼賛政治に誘導している。戦時の反省はどこにいったのか。
矢野:安倍さんが衆参で過半数を持ち、8月に衆議院選挙が違憲だという最高裁判決が出たら、いつでも解散するぞと野党を脅すことができる。これは大政翼賛会以上の恐ろしい権力です。
平野:私の『小沢一郎謀殺事件』という新刊が選挙中だということで一部の新聞に広告掲載を拒否されたんだから。もうそういうことは始まっているんですよ。
矢野:ただし、憲法改正には国会の3分の2が必要で、安倍総理にとって維新が思ったほど伸びなかったことはマイナスでしょう。そんななかで公明は憲法改正で揺れている。安倍総理にとって信用おけない存在です。つまり、公明は一定の抑止力を果たしている。それを村上さんは「けしからん」というんやけど。
村上:いやいや、けしからんじゃなくうまいなと。お互いにうまく利用している。公明は自分らがブレーキになるといい、安倍は公明が反対しているから改正できないという。
矢野:だが、そんなことをいうならそもそも今まで自民党は何をしとったんやと。
村上:いや、とにかく安倍に本気で憲法改正やる意志なんてないよ!
矢野:大きな声出してるこの方も参議院の偉い人やったわけやけど、今ごろわめくなら、なんでむかし憲法改正やらんかったんやと(笑い)。
平野:とにかく自民が出してきた憲法改正案は立憲民主主義を否定するようなとんでもないシロモノで、自民党は本気で通す気なんてありませんよ。まずは恐怖感を与えるのが目的で、それを利用して公明は「暴走を止める」と手柄にしている。憲法改正を真面目に議論するつもりなんて初めからなく、政権基盤構築の道具に使っているんです。
矢野:しかし、選挙結果をみて、安倍さんは確実に改憲に前のめりになる。そうなると、民主の一部にも改憲に積極的な層がいるので、憲法改正を軸にして“お魚釣り”のように野党から自民に釣られ、与党を中心とした政界再編が始まるかもしれない。
平野:憲法改正においては本来、参議院改革が重要でしょう。参議院は「良識の府」だというが、制度的に良識の府となるように規定されていない。有権者に選ばれた人たちが良識の府をつくっていけと言っているだけで、これは憲法のもつ欠陥だと思います。
村上:昔、片山虎之助(現・維新)が自民党の参議院幹事長をやっていたときに、衆議院の副議長だった衛藤征士郎が一院制をぶち上げたことがあった。片山はそこに乗り込んでいって「参議院を殺すのか」とテーブル叩いて怒鳴ったらしいんだ。ところが、維新に移って、いま国会議員団政調会長をやっているが、維新は政策として一院制を掲げている。これはいったいどういうことなのかと(笑い)。
筆坂:それにしても劣化したね、政治が。政治家をつくり出すシステムに問題があると僕は思うな。
●むらかみ・まさくに:1932年生まれ。1980年に参議院議員初当選。自民党国対委員長、労働大臣、参議院自民党幹事長、参議院議員会長を歴任した。
●やの・じゅんや:1932年生まれ。公明党立党に参加し、1967年に衆議院議員に初当選。公明党書記長、委員長、最高顧問を歴任。
●ふでさか・ひでよ:1948年生まれ。日本共産党入党後、1995年に参議院議員初当選。党中央委員会常任幹部会委員、書記長代行などを務めた。
●ひらの・さだお:1935年生まれ。衆議院事務局に務めた後、1992年に参議院議員初当選。自民党、新進党、自由党、民主党を渡り歩いた。
※週刊ポスト2013年8月2日号