新聞・テレビにとって国政選挙は大のかき入れ時だ。17日間の参院選の期間中には、政党や候補者の選挙広告やCM、投票を呼びかける選挙公報まで100億円にものぼる巨額の広告費が税金からつぎ込まれる。
今回から「ネット選挙」が解禁され、政党のバナー広告(*注)が認められた。
自民党は、画面に後ろ姿の安倍首相が登場し、「首相の背中を押してください」というメッセージに従ってクリックすると、首相が国会議事堂や田んぼなどを走り回る映像が流れるネット広告を制作。大手プロバイダや若者の利用者が多いサイトなどに流した。民主党も今回、ネット広告に力を入れている。
ネット選挙を導入すれば、新聞やテレビで広告を打てる大政党と違って、資金力のない小政党や無所属候補もホームページで公約を訴えることができるため、カネのかからない選挙になるという触れ込みだった。ところが、現実は正反対だ。ネット広告では莫大なカネが大メディアに流れる。
「ネット選挙解禁で選挙広告減少のダメージを受ける」と見られていた大新聞が、ネット選挙解禁に合わせて、政党のバナー広告を自社のニュースサイトに呼び込む営業に力を入れ、新たな選挙広告市場の開拓を進めているからだ。
朝日新聞の紙面とニュースサイトの選挙広告の料金を比較すると、それがよくわかる。紙面(東京本社版約437万部)の広告料は1回分が約154万円なのに対し、バナー広告の場合、ニュースサイトのトップ面や速報面に政党の広告が出現し、のべ200万人以上の目に映るという触れ込みの「プレミアムプラン」は1000万円だ。広告を見る人数は半分以下だが、料金は6倍である。
ニュースサイトの政党広告に力を入れている日本経済新聞や産経新聞なども、やはり紙面よりネット広告の方が割高な設定だ。
新聞各社は政党広告を競合する大手ポータルサイトに奪われないように、世論調査をもとに〈ネット「参考にしない」6割〉(毎日)、〈ネット「参考に」29%〉(朝日)と、ネットを利用した選挙運動を投票の参考にしない人が多いと報じていながら、自分たちはネット広告で高い料金を取っているのである。
【*注】インターネット広告の一種。サイト上で画像を用いて広告を表示する。画像をクリックすると広告主のページに誘導される仕組みになっている。
※週刊ポスト2013年8月2日号