世界で「プレゼンテーション」のブームが続いているが、日本人にはプレゼン苦手な人が多い。プレゼンが苦手な人は、何を見落としているのかについて、大前研一氏が解説する。
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もともと日本にはプレゼンが苦手な人が多い。理由は「うまく伝わらない」「納得してもらえない」といったことである。なぜそうなるのか? 律儀に何でもかんでも詳しく説明しようとするからだ。
プレゼンのツールは、今やパワーポイントが主流だが、ひと昔前はスライド映写機やOHP(オーバーヘッドプロジェクター)だった。私はマッキンゼー時代に若手のプレゼン力を鍛えるため、こっそり次のスライドやOHPシートを1枚抜き取っていた。ところが彼らはそれに気づかず、スクリーンに出てきた“次の次”の資料を説明する。目の前のチャートを説明することに必死だから、1枚飛ばされてもわからないのだ。
しかし、いくら懇切丁寧に説明したところで、自分がいいたいことが相手に伝わるとは限らない。むしろ、OHPやパワポに頼っていたら、人の心を動かすことは難しい。では、どうすればよいのか?
そのヒントは、今回のプレゼンブームの嚆矢となった故ランディ・パウシュの「最後の授業」(*注)にある。
パウシュのプレゼン力が素晴らしかった理由は、膵臓がんの末期で死に直面していたことや写真・映像を効果的に使ったことも大きいが、結局はスピーチのテーマが、「子供の頃の夢を持ち続けて努力することがいかに大切なのか」という1点だったからである。
つまり、プレゼンで最も大切なのは「たった一つの物語」なのだ。逆にいえば、プレゼンは全体で一つの物語になってなければならないわけで、その物語さえ相手に伝われば、チャートも映像も必要ないのだ。
私自身、講演やシンポジウムで世界中を回っているが、聴衆が500人を超えるような広い会場では、まずパワポは使わない。たいがい用意されたスクリーンが小さすぎるうえ、チャートを使って説明すると聴衆がそれを読もうとして神経を集中するため、話を聞くのが疎かになるからだ。
図表、グラフ、イラスト、写真などは、物語のテーマに対する証拠や物語の大きな流れを強調するための補完的なものでしかない。プレゼンのカギは、あくまでも「物語」なのだ。
【*注】最後の授業……2007年にカーネギーメロン大学のランディ・パウシュ教授が行なった生前最後の講義。全米で大反響を呼び、日本でも翻訳書がベストセラーになった。
※週刊ポスト2013年8月2日号