4年後の行政長官選挙をめぐって民主化運動が巻き起こっている香港。仕掛け人は香港の名門、香港大学の戴耀廷・副教授だった。
戴氏は今年初め、香港中心部の官庁・金融街である「中環(セントラル)地区」を1万人の市民で占領して北京政府に圧力をかけ、2017年の長官選挙に一般市民も立候補できる民主的な自由選挙システムを導入すべきとする中国では極めて奇抜なアイデアを公表。「愛と平和によるセントラル占領計画」と称して瞬く間にメディアの注目の的となり、市民の支持を集めた。
戴氏の構想が受け入れられた理由の一つに現在の行政長官である梁振英氏の不人気がある。長官側近の高官が汚職容疑で次々と辞任しているほか、長官自身も自宅の建設で法律違反を指摘されるなど、昨年7月の就任以来、スキャンダルだらけなのだ。
もう一つの原因は大陸の中国人への悪感情の高まりだ。共産党の高級幹部やその子弟が投機目的で高級住宅を買いあさり、不動産価格が急騰。ただでさえ地価高騰でマイホームの夢がしぼんでいた市民は、党高官らの強引な利殖行為に猛反発している。
また、一般の中国人旅行者は、中国内の汚染食品を避けるため、香港で日本製の粉ミルクなどを買い占める。これも香港人の対中感情を悪化させている。加えて、梁長官は徹底した親中派で、中国政府の指示には「三跪九拝」、完全なイエスマンであることが、戴氏のセントラル占領計画に勢いを与えることになった。
■文:ウィリー・ラム 翻訳・構成/相馬勝
※SAPIO2013年8月号