名門中の名門として知られる那須ゴルフ倶楽部
かつては「高級」を謳ったゴルフ場が次々と姿を消していくなか、いまだ「名門」を掲げるゴルフ場がある。戦前の1930年代からおよそ50年間、数々の名門コースを設計したのが名匠・井上誠一だ。
戦前に手掛けたのは3コースだが、そのうちのひとつがここに紹介する那須ゴルフ倶楽部(栃木県那須町)である。「井上誠一単独設計第1号」として後世に伝わる名門中の名門として知られる。
勧業銀行副総裁で、のちに初代理事長となる石井光雄が設計を井上に託し、那須に御用邸本邸が開設された1926年の10年後、1936年に開場した。
李王殿下の始球式で始まった77年の歴史が伝統と格式を育み、いまも常陸宮と同妃両殿下が静養の際に訪れ、他のメンバーと気兼ねなくフェアウェイを歩く。かつて作家・獅子文六は、「ゴルフをするだけならどこでもできる。わざわざ泊まりがけで那須の山奥までくるのはクラブライフを楽しみたいからだ」と語っている。
とはいえ、伝統を支える規律は厳しい。ドレスコードに反した服装であれば、相手を選ばずその場で着替えさせるという。
大きな高低差と自然を生かした巧みなアンジュレーションが難易度を高め、プレーするたびに違う顔を見せる戦略的なコースとして畏怖されている。
撮影■藤岡雅樹
※週刊ポスト2013年8月2日号