うなぎの高騰が続く中、なす、いわし、豚バラ肉、鶏肉などを使った代用蒲焼が登場している。
うだるような暑い日々が続く7月下旬のお昼どき、群馬県太田市の大衆食堂『かわとみ』の店内は、いつものように客でごった返していた。彼らが一様に掻き込んでいる褐色に輝く料理は、タレが染みこんだうな重にしか見えないのだけれど…。
「実はこれ、うなぎじゃなくて、“なす”なんです。皮をむいて電子レンジで蒸してふんわりさせ、蒲焼きのたれをつけた後、バーナーで焦げ目をつけるんです。しかも見かけだけじゃなく、食感もうなぎそっくりなんですよ」(店主の川田富勇さん)
実際にこの料理を食べた客に話を聞いてみると、
「確かに見た目も食感もソックリですよ。ただ味はやっぱりなすの味ですよね(笑い)。でも、うなぎが食べにくくなっているなか、うな重を食べた気にさせてくれるのでありがたいですよね」。
この『なすの蒲焼重』は、もともと、2008年に地元で開催された『第四回ぐんまふるさとレシピ大賞』に応募するために、川田さんが独自に発案したもので、その年の特別賞を受賞した料理だった。
「その後、店でも出し始めたんですけど、最初は1日10食程度で、全然売れませんでした。それが昨年、日本でうなぎがさっぱり獲れなくなってから、一気に大ブレークしまして。今じゃ、1日100食以上出る名物料理になっていますよ」(前出・川田氏)
今年に入ってからも、うなぎの高騰が止まらない。水産庁の調査によれば、現在、ニホンウナギの稚魚(シラスウナギ)の1kgあたりの平均取引価格は248万円と、2年前の3倍、10年前と比較すると、15倍以上と、文字通り“うなぎ上り”になっている。原因は深刻な不漁で、2009年に24tあった稚魚の国内漁獲量は、2012年には9tにまで落ち込み、その不漁が今年も続いているのだ。
フードジャーナリストの小川フミオさんが語る。
「高級店では、うなぎ料理の値上げをする所も出てきていますが、庶民的なお店では、客足を懸念してなかなかそれができません。それで、インドネシア産のうなぎであるビカーラを使用したり、アイディア料理として、うなぎ以外を使用した“うなぎの蒲焼き風”料理が次々に出始めています」
冒頭の『かわとみ』の「なすの蒲焼重」は、そのハシリだが、今ではなす以外にも多数の“うなぎの蒲焼き”風料理が出ている。多くはさんまやいわしなど、他の魚を代用にするケースだが、魚以外を使ったものも多い。
伊藤ハムは昨年5月、豚のバラ肉をうなぎに似せた『豚バラ蒲焼』を発売したところ、予想の10倍の売れ行きを見せたという。また、丸大食品は、『鶏肉の蒲焼き』を発売し、これも売り上げは好調だ。
他にもタレントの速水もこみち(28才)が「れんこんの蒲焼き風料理」をテレビで紹介して話題を呼んだり、レシピサイト『クックパッド』では、豆腐やごぼう、ちくわなど、数多くのうなぎの蒲焼き風料理が紹介されている。今では、スーパーの蒲焼きの売り上げの1割は、うなぎ以外が占めるようになっているともいわれる。
※女性セブン2013年8月8日号