東京で真夏日を71日も記録した2010年から、アイスクリーム市場は3年連続で4000億円を突破した。今年も好調な滑り出しで、4年連続への期待が高まっている。気温が30度になるとアイスクリームよりも売れ行きが伸びると言われる氷菓やかき氷も同様で、「ガリガリ君」(赤城乳業)は昨年、4億本以上売れたという。
冷たいデザートへの注目が高まるなか、かき氷専門店が若い女性を中心に人気を集めている。夏だけ提供する日本茶専門店の「しもきた茶苑大山」、通年営業のかき氷専門店である谷中の「ひみつ堂」や鵠沼海岸の「埜庵」といったメディアへの登場回数が多い有名店になると、原宿のパンケーキ屋のように1時間以上待つのは当たり前だ。列に加わる人たちの中には、かき氷のおかわりをし、一日に何軒も食べ歩く人も少なくないという。
彼女たちの代表が、業者向け氷削機として知られる池永鉄工の「スワン」を自宅に備えるほどかき氷好きだという女優の蒼井優だ。蒼井がかき氷の食べ歩き本を2011年に著したとき、多くの人にとってかき氷が目的の食べ歩きは驚かされるばかりだった。ところが、彼女と同じ年代の女性たちにとっては、しごく当たり前のことなのだそうだ。
アパレル関係の営業職として働く20代女性は、外回りが多い仕事を最大限に活用して、かき氷の食べ歩きを続けている。
「朝一番、最初の訪問先とお昼頃のアポイントメント、終業時間とおおまかに三つの時間の訪問先を確認して、そのとき近くにあるかき氷屋さんをあらかじめチェックしておきます。だから私の手帳には仕事の予定とかき氷の予定が並んでいるんです。専門店は軽食も食べられるお店が多いので、昼食もかき氷屋さんです。夏だけじゃなく秋も冬も、一年中です。Facebookにかき氷写真しかアップしないから、友だちからは呆れられています(笑)」
実際に、季節を問わず専門店のかき氷を食べ歩く女性は少なくないらしく、昨年10月に第1回、今年4月に第2回と開催された複数の専門店のかき氷を楽しめるイベント「東京かき氷コレクション」は大盛況だったという。実行委員会代表で、かき氷専門店のガイド本「かきごおりすと」出版者の小池隆介さんも、チケットがあまりに早く売り切れたことに驚いたそうだ。
「第1回のチケットは半日、第2回は発売開始から8分で売り切れてしまいました。かき氷専門店へ行くと男性の姿も少なくないのですが、イベントでは8割ぐらいが女性のお客さんでした。専門店のかき氷は食べやすいので、一般にイメージされるよりもたくさん食べられるのですが、イベントではだいたい皆さん、平均して6~7食くらいは食べられていたのではないでしょうか」
かき氷というと、たくさん食べたり、少し寒い日に食べるとキーンと頭に響くものと思いがちだ。ところが、プロが削る専門店のかき氷は繊細で口溶けがよく、頭が痛くなるようなことはまずないそうだ。その美味しさを知ってしまうと、寒くなってもかき氷を食べ続けたくなるのだという。前出の小池さんも、夏だけでなく秋、冬と続けて食べて味わって欲しいという。
「暑い日に食べたことをきっかけに、少し遅いかなという季節にも食べてみてください。専門店では、秋や冬にならないと味わえないメニューも用意されていますので、夏とは違った美味しさがあります。氷の削り方によって味わいが変わるのですが、専門店それぞれにこだわりの削り方があるので、自分の好みの氷を探す楽しみ方もありますよ」
清少納言が『枕草子』で「あてなるもの(上品なもの)。削り氷にあまづら入れて、新しき金鋺(かなまり)入れたる」と記しているように、約千年前、平安貴族も食べていたかき氷。一千年の時を経ても、日本の女子を引きつけてやまない魅力があるようだ。