国内

次期衆院選までの「黄金の3年間」謳う新聞は甘すぎとの批判も

 自民党の参院選圧勝を受けて「黄金の3年間」という言葉が飛び交っている。衆院議員の任期は2016年末まであるし、次の参院選も同年夏までないので「3年間は政権が安泰だ」という話であるらしい。
 
 読売新聞は7月22日付紙面で政治部長の署名コラムを掲載し「首相に求められるのは、この“黄金の3年間”を使って経済を立て直すことだ」と注文した。日本経済新聞も同じく政治部長の署名コラムで「与党からすれば『黄金の3年間』だし、野党にとっては『暗黒の3年間』かもしれない。しかし、多くの人が望むのは、与野党が正面から課題に取り組む『実りある3年間』にしてほしいということではないか」と書いた。
 
 産経新聞は同じ言葉遣いこそしていないが、やはり政治部長が「3年間も選挙がないのは千載一遇の好機である」と指摘している。
 
 似たような話を読まされて、私は「なるほど、これが最近の永田町のはやり言葉か」と受け取った。だれが言い出したか知らないが、与党幹部あたりが使っているのではないか。「これでもう当分、選挙はない」。すなわち「おれの身分は3年間、安泰だ」という話である。

 そんな与党に都合のいい言葉を、新聞がそう無批判に使っていていいのだろうか。私は「ちょっと待て」と言いたくなる。

 まず、総選挙が3年もないかどうかはだれにも分からない。安倍晋三首相が絶対に3年間、衆院を解散しない保証はどこにもないのだ。総理がその気になれば、いつだって解散できる。

 もっと大事な問題もある。いまの衆院は違憲という高裁判決が相次いだ。全国14高裁で示された16判決のうち14が違憲、2が違憲状態だ。違憲判決のうち2件は昨年末の総選挙は無効とまで言っている。秋には最高裁が最終判断を示す見通しだ。

 今度の参院選だって1票の格差は4.77倍に達していた。これは十分に違憲レベルだと思う。そういう国会であれば、なにはともあれ衆院を解散して、少しでも違憲状態を解消すべきではないか。まして安倍政権は憲法改正に意欲を示しているのだから、なおさらである。

 1票の格差は言うまでもなく、民主主義の根幹にかかわっている。裁判所から違憲と指摘された国会が予算案や法律案を審議して成立させたとしても、政治原理で考えれば、正統性が危うい。政府は「予算も法律も有効だ」と言うに決まっているが、メディアがそれに同調する必要はさらさらない。「おかしいものはおかしい」と言い続けるのは、メディアの大事な役割の1つである。

 そういう視点からみると、新聞が申し合わせたように「黄金の3年間」というのは「どうも政権与党の立場と自分たちを同化しているのではないか」という疑いを抱く。日経はやや中立的ではあるが……。

 衆院違憲の問題について、安倍首相はじめ肝心の政権責任者たちと話してみると、実はかなり感受性が高い。高裁判決を真剣に受け止め、政権の正統性についても忸怩たる思いを抱いている。認識が甘いのは、むしろ政治記者たちの側ではないか。

 これからの3年間は与党の黄金期にしてはならない。選挙制度を徹底的に議論し、国会議員を真に国民の代表とするために、できるだけ早く解散・総選挙をして日本の民主主義を根本から正常化する。そんな3年にしなければならない。

文■長谷川幸洋(ジャーナリスト)

※週刊ポスト2013年8月9日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

(左から)豊昇龍、大の里、琴櫻(時事通信フォト)
綱取りの大関・大の里 難敵となるのは豊昇龍・琴櫻よりも「外国出身平幕5人衆」か
週刊ポスト
セ・リーグを代表する主砲の明暗が分かれている(左、中央・時事通信フォト)
絶好調の巨人・岡本&阪神・サトテルと二軍落ちのヤクルト村上宗隆 何が明暗を分けたのか
週刊ポスト
過去のセクハラが報じられた石橋貴明
とんねるず・石橋貴明 恒例の人気特番が消滅危機のなか「がん闘病」を支える女性
週刊ポスト
女優の広末涼子容疑者が傷害容疑で現行犯逮捕された(写真は2019年)
《広末涼子逮捕のウラで…》元夫キャンドル氏が指摘した“プレッシャーで心が豹変” ファンクラブ会員の伸びは鈍化、“バトン”受け継いだ鳥羽氏は沈黙貫く
NEWSポストセブン
過去に共演経験のある俳優・國村隼(左/Getty Images)も今田美桜の魅力を語る(C)NHK連続テレビ小説「あんぱん」NHK総合 毎週月~土曜 午前8時~8時15分ほかにて放送中
《生命力に溢れた人》好発進の朝ドラ『あんぱん』ヒロイン今田美桜の魅力を共演者・監督が証言 なぜ誰もが“応援したい”と口を揃えるのか
週刊ポスト
大谷翔平(左)異次元の活躍を支える妻・真美子さん(時事通信フォト)
《第一子出産直前にはゆったり服で》大谷翔平の妻・真美子さんの“最強妻”伝説 料理はプロ級で優しくて誠実な“愛されキャラ”
週刊ポスト
「すき家」のCMキャラクターを長年務める石原さとみ(右/時事通信フォト)
「すき家」ネズミ混入騒動前に石原さとみ出演CMに“異変” 広報担当が明かした“削除の理由”とは 新作CM「ナポリタン牛丼」で“復活”も
NEWSポストセブン
万博で活躍する藤原紀香(時事通信フォト)
《藤原紀香、着物姿で万博お出迎え》「シーンに合わせて着こなし変える」和装のこだわり、愛之助と迎えた晴れ舞台
NEWSポストセブン
川崎
“トリプルボギー不倫”川崎春花が復帰で「頑張れ!」と声援も そのウラで下部ツアー挑戦中の「妻」に異変
NEWSポストセブン
最後まで復活を信じていた
《海外メディアでも物議》八代亜紀さん“プライベート写真”付きCD発売がファンの多いブラジルで報道…レコード会社社長は「もう取材は受けられない」
NEWSポストセブン
不倫報道のあった永野芽郁
《“イケメン俳優が集まるバー”目撃談》田中圭と永野芽郁が酒席で見せた“2人の信頼関係”「酔った2人がじゃれ合いながらバーの玄関を開けて」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! ゴールデンウィーク大増ページ合併号
「週刊ポスト」本日発売! ゴールデンウィーク大増ページ合併号
NEWSポストセブン