「ファミリーコンピュータ」発売から30年、ゲーム業界を牽引してきた任天堂の業績が、2期連続営業赤字を記録した。スマホの登場でゲーム機離れが進んでいるのではと言われているなか、任天堂が試みる新しい「ネットビジネス」について、ジャーナリストの永井隆氏がリポートする。
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スマホのゲームが普及した理由の一つはソーシャル・ネットワークである。友人・知人、さらには知らない人ともネットを通じて会話や情報交換などができ、ゲームを盛り上げられる。
その機能を取り込んだのが、WiiUで利用できる「Miiverse(ミーバース)」というネットワークサービスである。
WiiUの電源を入れると、「わらわら広場」という画面が表示される。広場には、ユーザーそれぞれが作った「Mii」と呼ぶキャラクターがたくさん出てきて、ソフトのアイコンの周りに集まっている。時々、ゲームで遊んでいる人の発言が表示される。ここから、同じゲームで遊んでいる人とメッセージをやりとりしたり、フェイスブックの「いいね!」のように「そうだね!」ボタンで共感できたりする仕掛けだ。
ミーバースを含め、任天堂は「デジタルビジネス」を大幅に拡大することを打ち出している。岩田聡社長は「収益機会を拡大するために重要」と位置づけ、特にダウンロード版ソフトの販売に力を入れていくとしている。
「単にパッケージのソフトをダウンロードするだけ」と言えばそれまでだが、ビジネスとしては大きなチャンスがありそうだ。 WiiUの画面から「ニンテンドーeショップ」に行く以外のチャネルも検討されている。
「年末年始には、アカウント管理を徹底してスマホやパソコンからでも購入できるシステムを立ち上げる予定」(任天堂関係者)
WiiUのネット接続率は80%と高い。3DSになると、日本で87%、アメリカでも83%に達する。しかも、一度ダウンロードを経験すると、次もダウンロードを利用する人が多いというデータがある。人気ゲーム「とびだせ どうぶつの森」では、前期出荷数のおおむね4分の1はダウンロード版で占められる。ネットワークにより、確実にゲームの買い方が変わっている。それは新しい顧客層の獲得にもつながる。
ライターでありゲーム関連のウェブサイトやイベントの企画制作に携わるプランナーの田下(たおり)広夢氏が語る。
「面白い取り組みが、セブン-イレブンを中心に取り扱っているPOSAカードによるダウンロード販売です。これにより、能動的にオンラインでゲームを探してダウンロードする層だけでなく、ふとコンビニで買いたくなった人や、オンラインでの課金に抵抗がある人も取り込むことができます。
店にとっても、在庫リスクや万引きリスクがなく、陳列スペースが小さくて済むというメリットがある。コンビニでゲームが置かれるのは、ユーザーとの接触機会を高める上で非常に有効です」
※SAPIO2013年8月号