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選挙で「マイナス1票」導入 参院選東京でシミュレーション

「投票したい候補はいないが、落としたい候補はいる」──今回の選挙でそんな思いを抱いた有権者は少なくないはずだ。しかし、「マイナス1票」の投票権を創設し、その1票でダメ政治家を落選させることができるとなれば、選挙が俄然、面白くなる。日本政治が劇的に変わる可能性もあるのだ。

 導入されれば、選挙はこんな光景になる。
 
 有権者は投票所の受付で、当選させたい人を選ぶ「白い投票用紙」か、落選させたい人を選ぶ「青い投票用紙」のどちらかを選択し、候補者名を記入する。白票はプラス1票、青票はマイナス1票と計算され、その候補が得た白票から青票を差し引いた票数が最終得票になる──。

 いわば、落選運動を制度として投票に組み込むのだ。そうなると、候補者の過去の言動や政治姿勢が厳しくチェックされて、誰を落選させなければならないかの議論が沸騰するだろう。マイナス投票を可能にするだけで、「1票の行使」の選択の幅が大きく広がる。どんな選択ができるか今回の東京選挙区でシミュレーションしてみよう。

 まず「反自民」の有権者であれば、自民党の丸川珠代氏と武見敬三氏のアベック当選を阻止するために、一方にマイナス票を集中させることを呼びかければ、5位当選の武見氏は落選したかもしれない。逆に、共産党の躍進が予想された段階で、自民党支持層などが集団でマイナス票を集中させれば、3位当選の吉良佳子氏は当選圏外に去っていたかもしれない。

 鈴木寛氏と大河原雅子氏の候補者一本化で内ゲバを起こした民主党がどうなっていたかは明白だ。党から一方的に公認を取り消された大河原氏の支持者がマイナス票を投じれば、鈴木氏は早い段階で当選圏外になっていただろう。

 無所属で当選した山本太郎氏にも、放射能被害を過剰に煽ることを嫌う有権者からマイナス票が殺到したことは想像に難くない。全国の有権者の票が集まる比例投票ではもっと過激なことが起きる。

 ワタミ前会長の渡邉美樹氏はネット上などで「ブラック企業の経営者」と強烈な批判を浴びながら、10万票を集めて自民党から当選した。マイナス投票制度があれば、渡邉氏に批判的な有権者たちは渡邉氏にマイナス票を投じる選択肢ができる。それは渡邉氏の得票を確実に減らすことができるのだ。

 前回の議員時代に数々のスキャンダルにまみれたアントニオ猪木氏(維新でトップ当選)への出馬も賛否両論を巻き起こしたが、そうした候補者の場合、得票以上の批判票を投じられ、総得票がマイナスになるケースも起こりうる。

 各政党は、比例票集めの“人寄せパンダ候補”としてタレントや著名人を出馬させているが、よほど人物を慎重に選ばないと、政党の得票を減らす結果になりかねない。選挙制度を研究する加藤秀治郎・東洋大学法学部教授がいう。

「選挙には特定の候補や政党を選ぶという面と、不適格な候補者、政党を落とすという目的もある。マイナス投票は技術的に難しい部分はあるが、各国で行なわれている落選運動と同じだから、選挙制度としてあってもいい」

※週刊ポスト2013年8月9日号

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