東北福祉大4年、21歳の松山英樹が全英オープンで6位タイの成績を収めた。が、4日間は順風満帆ではなかった。
初日、2日目を無難にこなし、首位と5打差で決勝ラウンドに進んだ松山は3日目、9番からの3連続バーディーで通算1アンダー、首位と1ストローク差に急浮上していた。
ところが15番で、競技委員からスロープレーの警告を受けると、それまで安定していたプレーに影が差す。17番ではティショットを左へ大きく曲げてボールがギャラリーを直撃した。
松山はその客に謝罪して、サインしたグラブをプレゼント。そして深いラフに埋まったボールをどうにかリカバリーした。しかし3打目に向かう際に、まさかの出来事が起こる。2回目のスロープレー注意ということで、1ストロークのペナルティを宣告されたのだ。動揺を隠せない松山。続く18番ではボギーを叩き、優勝争いから後退を余儀なくされた。
この1ペナは大きな「騒動」となった。この日のホールアウト後、同伴競技者だったジョンソン・ワグナー(米国)が、「彼のプレーが少し遅いのは事実だが、時間がかかりすぎたとも思えない。もう少し適正な判断をしてもよかったのではないか」と猛抗議。ミックスゾーンでも、イギリス本国を含め多くの海外のメディアから「ペナルティは適切だと思うか」という質問が飛んだ。一部では、「アジア人の松山に対する“人種差別”的ペナルティだったのではないか」という指摘も出たという。
伏線はあった。
「今年4月のマスターズでも、史上最年少でローエスト・アマのタイトルを獲得した中国のグァン・ティンラン選手(14)が、2日目に同じスロープレーでペナルティを受けた。それと、松山の一件を結びつけたのです。東洋人の新人に対し、“洗礼”を浴びせたのではないか、という疑惑です」(ゴルフ誌記者)
松山の組は15番ティ到達時点で予定されていた時間よりも15分遅れていたため、計測対象になったという。しかし15分も遅れるということは競技全体が遅れているわけで、その中で松山1人がペナルティを受けたのも不可解だった。
「欧米のゴルフメディアは、こうした“人種的偏見”とも見られる一件を煽るのが好きなんです。2007年には、全英の主催者・R&Aの役員が人種差別的発言をしたとして問題になったし、最近はタイガー・ウッズに対して、セルヒオ・ガルシアが同じく人種差別的発言をしたと騒ぎ立てた」(同前)
そのような経緯もあってか、R&Aは素早く対応。
「ギャラリーへ配慮していた時間は計測していない。難しい判断が必要だった事情を斟酌した上での裁定で、スロープレーの判断は公正だった」
と、異例の緊急会見を開いて説明した。
確認する限り、確かに今回の松山のプレーがいささか手間取りすぎていたことも否めず、そもそも“東洋人への洗礼”があったとは考えたくもないが、逆にいえばそんな憶測を呼ぶほど松山の強さが際立っていたといえる。
※週刊ポスト2013年8月9日号