政府が全株式を持つ日本郵政グループと外資系保険大手の米アメリカンファミリー生命保険(アフラック)との“最強タッグ”は、民業圧迫どころか、既存の国内生保を窮地に追い込みかねない可能性すら危惧されている。
7月26日に発表された業務提携の中身は、日本人の3人に1人が加入しているとされる「がん保険」を巡り、7割以上のシェアを持つアフラックの商品を全国2万の郵便局窓口で売ろうというもの。さらに、郵政グループ傘下のかんぽ生命保険の直営店での販売や、共同で新しいがん保険商品まで開発する予定だという。
外資のアフラックがそこまで日本でがん保険を独占できたのはなぜか。
「アフラックが日本進出した1974年当時は、日本の医療保険は死亡保険に特約をつけたものしかなく、独立した商品がなかった。そこで、がん患者が多い時代背景にも目を付けたアフラックが、がん専用保険を開発して日本政府の後押しを得て初参入した。
その後もがん保険をはじめとする医療保険の『第3分野』は、外資系や中小の保険会社を保護する目的で、2001年まで国内の大手保険会社に販売が認められなかったため、アフラックは規制に守られながら先行者利益を伸ばし続けた」(国内生保幹部)
安い保険料と手厚い保障内容を謳ったアフラックのがん保険はCMでもお馴染み。だが、「がん保険はあくまで医療保険の“添え物”でしかない」と話すのは、『良い保険・ダメな保険の見分け方』などの著書がある国際保険総合研究所の三田村京氏である。
「がん保険はその名の通りがんにしか使えないのはもちろん、発症率の高い60歳以上になれば保険料が跳ね上がる一方、保障額は減額されていくなどメリットは小さくなります。
また、先進医療特約の項目が非常に限定的だったり、死亡理由ががんとは直接関係ない病名で死亡保険金が下りなかったりして後悔する人も多い。まずはあらゆる病気に対応する医療保険を充実させたうえで、家系や生活習慣などで心配な人は加入すればいいと思います」
さらに、三田村氏は興味深い研究所内のデータを示してくれた。がん保険に加入している人のほうが、他の保険に入っている人よりがんでの死亡率が1.5倍高いのだという。最終的には備えが役立ったケースにも思えるが、その理由は「がん保険に入ったからと安心して定期健診をしなくなる人が多いから」(三田村氏)だそうだ。
死亡時にまとまった保険金が支払われる一般的な保険商品に加え、さまざまな医療保険商品も乱立する現在。その中からがん保険を選ぶメリットを十分に考慮しなければ、せっかく払い続けた保険料も無駄になる。
しかし、日本郵政とアフラックのスケールメリットを利用したがん保険の販売攻勢が行われれば、加入者の選択肢を狭めることにもなる。保険評論家の大地一成氏がいう。
「あまり知られていないのですが、かんぽ生命の個人保険・新契約件数は毎年200万件あまりで国内トップ。それだけ信用度や販売力が高いのです。そこに便乗してアフラックの代理店がかんぽ生命の終身保険なども一緒に売り出せば、他の生保商品はどんどん魅力を失っていくかもしれません」
もはや外資系も含めた生保業界のさらなる再編は避けられないと予想する大地氏。そうなれば、看板だけがころころ変わる保険商品を、消費者はどう信用して加入すればいいのか。
「目先10年間だけの保険料を比較して安いからといって飛びつくのは間違い。20年後、30年後に加入している保険契約の内容がどうなっているのかをしっかり確認するのが基本。そして、いろんな人生のパターンを複合的に考え、将来的に少しでも保障額の多い商品の費用対効果をシミュレートしたいところです」(大地氏)
いくらTPP絡みの“国策的提携”とはいえ、日本郵政を核とした保険業界の競争激化は、消費者にとってみれば魅力的な商品に出会うチャンスだと言えなくもない。