7月21日に投開票された参議院選挙によって衆参のねじれが解消され、自民党政権がしばらく続きそうだ。アベノミクスと名付けた経済政策が賞賛されているが、福祉が切り捨てられるのではとの懸念もある。高齢化社会の最前線、限界集落となっている旧・戸山団地(東京・新大久保)を作家の山藤章一郎氏が尋ね、その窮状を報告する。
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東京・JR〈新大久保駅〉から5分行く。〈百人町アパート〉旧・戸山団地に着く。元・映像プロデューサーの本庄さん・75歳の部屋に招じ入れられた。「孤独死ゼロ」をめざすNPO法人〈人と人をつなぐ会〉の仲間も部屋にいた。60平方メートルの3DK。クーラーはなく、奥に向かって長い間取りに敷きっぱなしの布団が見える。
「政府は医療費をあげて年金、生活保護費の減額をもくろんでます。それで合計5000億円浮く。〈国土強靭化〉コンクリートに何百兆円ですか。絶対におかしい。懸命に働いてきたがいまは無収入。そんな者から搾り取る。これがアベノミクスの正体です。自民が圧勝していよいよ、弱者受難の時代が加速するんです。
この団地に来るまで人を見なかったでしょう。ゴーストタウンじゃないんですよ。1日朝から晩までテレビ見てちゃんと住んでる」
昭和24年にできた先駆的団地のモデルとなったアパート群である。「憧れの団地だったんです」
現在2324世帯、推定3500人が住む。空き家なし。ほぼ半分が年寄りひとり暮らし。「限界集落、姥捨て山」。メディアに過剰に取りあげられ、団地の心象は悪くなったという。氏は7万円の生活保護を受給している。同様の生活の人が数多く住む。
ひとつの例──ガス代が高いから100円のボンベを使う。「これでひと月。焼きもんもできる。ごはんも炊ける」。おかずはコンビニやスーパーに行き、1000円で2、3日分を買う。食費は切り詰めて月に2、3万円。
〈老老介護〉の部屋も少なくない。90の夫のデイサービスにもカネがかかる。80の妻は、1日1食を抜く。水だけの時もある。
「われわれ世代は受給を恥と感じ、受けない人もいます。そしてガスも電気も止められ、食べるものをまったく買えない」
世界3位の経済大国に貧困が拡大している。生活保護受給者はこの10年でほぼ倍増し、過去最高の215万人をかぞえる。内閣官房副長官・世耕弘成(せこう ひろしげ)らの強い具申もあって、安倍政権は〈生活保護費〉を削る。家族3人のモデル世帯で1か月1万6000円減る。
一方、国は老人に対する互助基盤〈地域包括ケアシステム〉を提唱している。社会福祉協議会、民生委員、自治体などで、互いに助け合おうという概念を基にした政策である。しかし、本庄さんもかたわらにいた仲間の竹原さんも古瀬さんも強く憤慨する。
「孤独死が出たら地域の恥だからと、自分たちのことは自分たちでやれと国は弱者に負担をおしつけようとしているんです。〈公共事業〉のように積極的な救いの手を差し伸べようとはしない」
そしてこのアパートでも14人もの孤独死の出た年があったという。遺体は3日目から腐る。夏はクーラー、冬は暖房。夏より冬、腐敗が進む。
「炬燵に入ってたら、溶けてなくなっちゃう。重油撒いたみたいにドロドロ。とにかく、3日以内に発見してあげたいんです」
※週刊ポスト2013年8月9日号