ワーキングマザーの多い業種を中心に導入が進む「企業内保育所」。だが、厚生労働省がまとめた事業所内保育施設数の推移を見てみると、2004年の1233件から増え続けているものの、2011年度末で1610件とニーズを満たすほどの広がりはない。
さらに、会計検査院の調べで1993年以降、全国81施設の企業内保育所が休止や廃止に追い込まれていたことも分かった。折しも、国や自治体の基準を満たす認可保育所が足りず、待機児童の多さが社会問題化するいま。必要とされる企業内保育所の閉鎖が相次ぐのはなぜなのか。
女性の働き方を研究している第一生命経済研究所・上席主任研究員の的場康子さんに聞いてみた。
「企業の経営判断といってしまえばそれまでですが、設置当初に予定していたほど利用者が増えないのが大きな要因です。そのうえ、認可外の企業保育所は運営費の助成が5年で打ち切られるために、その後、保育士の人件費などが賄えずに財政的に厳しくなっているところが多いのです」
ならば、利用料金を上げて安定的かつ継続的な運営を目指せばいいものの、「認証保育所レベルの月5、6万円程度(未就学児)を超えると、さらに利用者は減ってしまう」(メーカーの福利厚生担当者)という悪循環を招いてしまう。
また、企業内保育所は「仕事中でも常に子供の面倒を見られる」「勤務時間に合わせて預けられる」と利便性が高い反面、意外にも都会ではこんな悩みから利用をためらう人も多いらしい。
「毎朝、満員電車で子供を職場まで連れていかなければなりませんし、着いてもオフィス内の狭い空間で定員も少ない保育所は、<子供の遊ぶスペースが足りない><同年齢の友達ができない>と環境面での不満も出ています」(前出・的場さん)
最近では妻の企業ではなく、イクメン夫が自社の保育所に子供を連れていくケースも増えている。さらに、保育事業を受託する民間業者が英語や音楽など教育プログラムを充実させたり、職場の昼休みを利用した行事の開催を企画したりと差別化を図っているため、環境面での改善は進みつつある。
政府は2015年をメドに企業内保育所への支援策を拡充する方針のため、財政面での不安も次第に払拭されていくはずだ。
ただ、単に企業内保育所の数が増えればいいという問題でもない。的場さんは「男女を問わず働き方のスタイルを変えなければ意味がない」と指摘する。
「そもそも企業内保育所は女性が就業継続できるように設置するものですが、従業員の年齢構成が高齢化にシフトすれば、育児だけでなく親の介護問題も夫婦で分担しなければなりません。
そこで、男性も長時間労働で仕事オンリーではなく、仕事と家庭の両立ができるような働き方に変えなければ、結局は女性の負担ばかり増え、会社を辞めなければならないことになります。これでは企業内保育所などの投資も無駄なコストだったということになりかねません」(的場さん)
企業内保育所の普及を進めるためには、ハコモノの整備以前に家庭環境を含めた従業員の実態把握と就業形態の見直しが必要なのだ。