4年後の香港の行政長官選挙をめぐって、香港の民主派グループと中国共産党政権が対立して大きく揺れている。香港の民主化運動に対して習近平・国家主席は香港駐留の中国人民解放軍を出動させ、24年前の天安門事件同様、流血による民主化弾圧さえ辞さない構えを見せている。
香港を二分する騒動の仕掛け人は、香港の名門、香港大学の戴耀廷・副教授だった。
戴氏は今年初め、香港中心部の官庁・金融街である「中環(セントラル)地区」を1万人の市民で占領して北京政府に圧力をかけ、2017年の長官選挙に一般市民も立候補できる民主的な自由選挙システムを導入すべきとする中国では極めて奇抜なアイデアを公表。「愛と平和によるセントラル占領計画」と称して瞬く間にメディアの注目の的となり、市民の支持を集めた。
香港における中国政府の出先機関である中央人民政府駐香港特別行政区聯絡弁公室(中聯弁)は、2017年の長官選挙候補者について「愛(中)国愛(香)港」の人物で、中国寄りの選挙委員会が認めた人物でなければならないと強調。戴氏の計画は反中国の対外勢力による陰謀であり、中国統治の転覆をもくろんでいると非難した。
さらに、筆者の独自情報によると、セントラル地区が占領された場合、中国軍が動員される可能性もある。北京在住の香港政策に深く関係する中国政府筋によれば、習主席ら党指導部は計画に激怒しており、香港市民が大規模デモや座り込みを行なって香港の中枢機能が麻痺するような事態が現実になれば、軍の出動も辞さない構えだという。
香港駐留中国人民解放軍の司令部はセントラル地区にあるが、兵力の大半は香港に隣接する深?に駐屯している。その駐屯軍は最近、香港北部の新界地区で大規模な軍事演習を実施した。火砲や銃、戦車による実弾演習や夜間訓練を繰り返し、近隣住民の苦情が引きも切らない状態だ。
駐留軍はこれまで香港市民の対中感情を考慮して、基地開放日以外はほとんど姿を見せず、演習も深?など広東省内で行なっていただけに、最近の軍事演習が強い威嚇であることは明白だ。
天安門事件24周年記念日の6月4日、香港中心部では事件の再評価、関係者の名誉回復や中国での政治改革を求める大規模集会が開催され、15万人の市民が参加した。この10年で最も多いだけに、市民の対中不満は沸点に近い。
しかし、習近平政権としては、市民に妥協して長官選挙で民主的手法を採用すれば、中国大陸内にも民主化運動が波及しかねないだけに、ぎりぎりの対応を迫られることになる。
■文:ウィリー・ラム 翻訳・構成/相馬勝
※SAPIO2013年8月号