親の遺産相続を巡って兄弟の身に次々に起きるトラブルをどう解決するか。中でも働かない兄弟の存在は、親を亡くしたときに、新たな問題を浮き彫りにする。
例えば、親が「働かない子供に全財産を」と遺言状に書いた場合、他の兄弟は一銭も相続できないのだろうか。相続問題に詳しい三菱UFJ信託銀行執行役員の灰谷健司氏がいう。
「他の兄弟は遺留分を受け取る権利があります。遺留分とは、民法で定められる相続人が最低限相続できる権利のこと。例えば、2人兄弟だとして、両親を亡くした時の遺留分は財産の4分の1と決められています。
ですから“全財産を働かない弟に残す”という遺言書があっても、兄がそれを認めず遺留分を請求すれば法律的には受け取れます。
私の知るケースでは、兄が弟を思って遺言の通り相続しなくていいと考えていたが、兄の妻が納得いかずに兄に遺留分を請求させたことがありました。それがきっかけで仲の良い兄弟に溝ができてしまいました」
こんな事例もある。Aさん(55)は相続の一切を放棄し、実家の土地と建物の権利を弟(52)に譲った。
この弟は仕事もせずに実家に暮らしていたが、「親がいなくなったことで自立するだろう。その財産は餞別だ」とAさんは考えていた。
しかし、後日、税務署から「相続税の支払い」に関する督促状がAさんに届いた。相変わらず働かない弟は相続税を滞納していた。相続税の納付には連帯責任義務があり、Aさんが肩代わりするハメになった。
「私は相続していないのに、相続税を収めることになった。バカバカしい話だ」
自嘲気味に笑うAさん。その一件以来、弟とは口を利いていないという。
※週刊ポスト2013年8月9日号