自民党の復活で新幹線や高速道路、ダムなどの建設・整備計画がズラッと並ぶ。八ッ場ダムなど現在の公共事業の多くは田中角栄首相が推進した「新全国総合開発計画」で構想され、その後、採算が取れないと長く凍結されていたものだ。高度成長期にも無理だとされた亡霊プロジェクトが40年以上の時を経て甦ったのである。
もちろん、たとえ採算があわなくても国民のために必要な公共事業はある。
角栄氏が列島改造を掲げたのは、当時、産業基盤がほとんどなかった地方に新幹線や高速道路のインフラを整備し、工場を地方に再配置することで流出した労働者を呼び戻すことをめざしていたからだ。だからこそ、都市の労働者も角栄氏を支持し、実際に国内の産業再配置は進んだ。
しかし、安倍政権が進める列島改造は角栄氏のそれとは似て非なるものだ。地方再生の理想やビジョンはなく、ゼネコンや選挙区にカネを落とすために、無理に事業をでっちあげている。その一つが建設中の九州新幹線長崎ルート(総工費5000億円)だ。
国土交通省は当初、長崎ルートが完成すればJR特急で1時間48分の博多~長崎間が26分短縮されるという前提で費用対効果を計算していた。ところが、運行スピードが過大に設定されていたことが発覚。実際の設定速度ではわずか13分程度しか短縮できないと批判された。それでも同省は全線着工を認可し、わずか13分短縮のために5000億円の税金が使われる。
安倍-石破新幹線(二人の地元である山陰・山口と鳥取を繋ぐ)も同じだ。建設費は4兆円と試算される。全国新幹線鉄道整備法の基本計画に山陰新幹線が盛り込まれたのは35年前だが、現在は過疎化が進んでおり、沿線各県の人口はこの5年間で3%以上減っている。山陰本線さえ乗降客が減っているのに、どんな理屈で新幹線建設にゴーサインを出すつもりなのか。四国新幹線など、費用対効果どころか、建設費がいくらかかるかわからない事業も「建設」が約束された。
高速道路では二階俊博氏の地元・和歌山の「紀伊半島一周高速道路」をはじめ公共事業のための公共事業のオンパレード。かつて無駄な道路の象徴として批判された二階道路(那智勝浦道路)はこの半島一周道路の一部として1240億円をかけて建設され、国交省が発表した効果は「12分間の時間短縮」だった。
今後の計画ではもっと交通量が少ない区間に向かって延びていく。同省は「紀伊半島最南端の串本町から和歌山市まで約3時間かかるところを35分ほど短縮できる」と予測しているが、35分のために約2000億円の新たな税金を注ぎ込むのだ。
※週刊ポスト2013年8月9日号