ある土曜日。従来型の携帯電話(ガラケー)からスマートフォンに乗り換えた40代のサラリーマン。週明けの月曜日にオフィスで女性社員から「あれっ、課長スマホでしたっけ?」と聞かれ、「知らなかったっけ?」と得意満面に操作してみせる――。
これは、パナソニック製スマホ「ELUGA(エルーガ)P」(NTTドコモ)のテレビCM。携帯電話のテンキーを模した<ケータイキー>や、文字入力時の変換候補に指を近づけると拡大表示してくれる<タッチアシスト>など、スマホ初心者にもやさしい機能が売りとなっている。いわば「ガラケーっぽいスマホ」というわけだ。
実はいま、通話やメールなどシンプル機能に特化したガラケーの復権に期待する声が高まっている。
総務省が6月に発表した調査によれば、スマホを所有している家庭の割合は2012年に49.5%と、前年比で1.7倍に増えた。しかし、スマホ普及のスピードはどんどん速まっている一方で、根強いガラケー需要は存在する。調査会社のMM総研の調べでも、2012年度の携帯電話出荷台数(見込み)のうち、ガラケーの割合は約26%あった。
一定のガラケー人気を支えている層はどんなユーザーなのか。モバイル評論家で青森公立大学経営経済学部准教授の木暮祐一氏が話す。
「確かに大都市圏ではスマホの所有率が圧倒的に高いのですが、地方に行けば通話用のガラケー1台しか持っていないという人はたくさんいます。なぜなら、移動手段がもっぱらクルマのため、その間はスマホをいじれない。ネットやメールを使った通信手段は自宅かオフィスにあるパソコンで十分なのです」
また、近年では持ち運びも便利な低価格のタブレットが多数発売されているため、「タブレット+通話専用のガラケーの2台持ちという人が増えている」(木暮氏)という。
そんな中、業界を揺るがす発表があった。かつてガラケーの「N」シリーズで一世を風靡したNECがスマホ事業から撤退し、ガラケーの開発のみに専念する決断をした。さらに、パナソニックまで個人向けのスマホ事業を大幅に縮小する検討をしているという。
「ドコモがソニーと韓国サムスン電子のスマホ2機種だけ広告や販売促進費を集中させる“ツートップ戦略”を取ったため、スマホ開発に出遅れて開発コストに見合った利益を上げられない日本メーカーが次々とハシゴを外されている状況」(業界関係者)
NECの川島勇取締役は会見で「魅力のある商品が作れなかった」とうなだれたが、ネット上では、「ならば、画期的なガラケーで勝負すればいいじゃないか」といった起死回生策を望む声が広がっている。
前出の木暮氏も、ガラケーの新展開に期待しているひとりだ。
「仕方なくスマホに乗り換えた人たちの中には後悔している人も多い。多機能を使いこなせないばかりか、電池はすぐに消耗するし、通話やパケット料金が高いと不満を持っているのです。
そんなとき、例えば通話機能に特化したガラケーで、デザイン性に優れた機種がたくさん出れば注目度は高まります。開発費を抑えた安価なガラケーなら、例えばSIMカード(電話番号などの契約者情報を記録したICカード)を差し替えて利用シーンに応じた使い分けができるなど、ユニークなアイデアも出てくると思います」
もともと日本独自の進化を遂げたためにガラパゴスと揶揄された携帯電話。だが、裏を返せば、日本のモノづくりの粋を集めた“最高傑作”であったはず。ならば、NECやパナソニックといった日の丸メーカーに意地を見せてほしいところだ。