双子の100才、きんさんぎんさんの4人の娘たちも今や平均年齢94才、母親譲りのご長寿だ。記者が、取材のため、1か月に1度、蟹江家を訪れるようになってちょうど2年。その過程で、昨年9月ごろから、長女・年子さんと三女・千多代さんの“御髪”に、明らかな変化が起きていることに目を見張るようになった。
それまで銀髪だった2人の前髪に、薄黒い毛がまじるようになり、ここにきて、それが増えて黒々としてきたからだ。
長女・年子さん(99才):「風呂に入るたんびに鏡を見ると、確かに黒うなってきた。不思議だにゃあ」
三女・千多代さん(95才):「私も“あんた、髪を染めたの”って、人さまから言われることがある」
年子さん:「私は牛肉や豚肉、鶏のから揚げが大好きだで、それで元気がもりもり出ちゃって、黒くなってきたんかと思うただが…(笑い)」
五女・美根代さん(90才):「いや、姉さんたちの髪の毛が黒くなったんはね、食べ物じゃないと思う。やっぱり、4人が集まってべらべらおしゃべりして、頭を働かせるからと思う。しかも、最近はこうして人様の前でなぁ」
脳の神経細胞は会話することによって活発になり、おしゃべりをすればするほど、高齢者の脳の血流量は増えるといわれている。
四女・百合子さん(92才):「そこへいくと、私の髪があんまり黒くならんのは、頭の使い方がまだまだ足りんということだがね」
美根代さん:「そうかもしれんにゃあ(笑い)」
美根代さんが言うように、ほぼ毎日のように繰り返される、姉妹たちの“縁側談議”は、脳年齢を若返らせているといえるのだろうか。
そこに着目したのが、人工知能(AI)についての研究を進めている千葉大学大学院(工学研究科)の大武美保子准教授だ。
大武さんは現在、高齢者同士の会話を支援し、認知症予防に役立たせるためのロボットを開発中。4姉妹から、脳を活性化させる会話のヒントを得られないかと、今年1月から5回ほど4姉妹を訪ね、その“おしゃべり”をつぶさに検証してきた。
「まず驚いたのは、4姉妹のみなさんの会話がポンポンとキャッチボールのように、テンポよく弾むこと。ただのおしゃべりじゃないんですよ」
大武さんは高齢者同士で会話をしてもらう際、参加者に共通する思い出の写真を見てもらいながら話をする“共想法”という方法を取り入れている。この方法で、4姉妹が東京旅行をしたときの写真を見てもらいながら、3分間、好き勝手に会話をしてもらった。
そして、ひとつの発言、それに伴う「そうそう」などの相槌、「へぇ~」という驚きや感嘆、笑いを1カウントに数えて回数を集計した。すると、盛り上がっている時はわずか3分間で102回の発言、相槌、笑いが飛び交っていることがわかった。
「およそ2秒に1回、話し手が交代しているわけですよ。一般的な高齢者同士の会話では、盛り上がっている時でも話し手が替わるのは3秒に1回程度。つまり、4姉妹のみなさんの会話は非常に短い時間にパッパッと話し手が切り替わるんです。さらに、同時に2人が絡みながらしゃべることも多い。話しっぱなしでも、聞きっぱなしでもなく、聞きながら話すことと、話しながら聞くことを4人全員がやっている。そこがすごいところです」(大武さん)
普通、80才を過ぎれば、会話がポンポンといかなくなるものだが、平均年齢94才の4姉妹は異なる。
千多代さん:「やっぱし、4人でワイワイやって、長い間に訓練されたんと違うやろうかぁ」
美根代さん:「いやおしゃべり好きは母譲りかもしれん。あんねぇ(年子さん)なんかしゃべりすぎて、入れ歯が外れたことが何回もあるよ(笑い)」
そんな姉妹たちの会話の妙を、大武さんがこう指摘する。
「次から次へと弾む会話は、相手が次に何を言うのかと、話しながら考えているわけで、これは脳の複数の機能を同時に使っているため、脳をさらに活性化させることにつながっていると考えられます」
4姉妹が同じ家で育ってきたことも会話を弾ませている要因だ。例えば、昔の子供時代のことを話す場合、その体験は4人が共有しているので自然と胸が高鳴っていくのだという。大武さんは言う。
「“昔はこうだった”と誰かが言うと、“ふーん”で終わるのではなく、他の3人がそれに関することを次から次へと言い出して、4人の心が動く。そこに自然と脳が反応するわけです。4人で話すことによって、お互いの記憶も強化されて、“そうだった、そうだった”と思い出していく。やはり、脳というのは、使えば鍛えられる。そして、鍛えればさらに使えるようになるわけで、いい相乗効果が生まれているといえます」
※女性セブン2013年8月15日号