一部の飲食チェーンをのぞき、レストランや食堂など外食産業が厳しい時代だといわれている。外食率も1997年の37.8%をピークに増減を繰り返し、2012年には35.2%まで減少している(食の安心・安全財団調べ)。外食から足が遠ざかる一方で、アジア各国の、しかも地方のご当地料理を食べられるお店が女性を中心に人気を集めている。
最近発売されたガイド本をみると、どの国のどのくらいの辛さかといった表記だけでなく、どの地方の料理なのかを意識した記載が目立つ。『世界のお弁当』『世界の鍋』の著者で日本での各国料理の受容に詳しい服部直美さんによれば、「この数年は、日本からアクセスしやすい大都市や有名観光地ではなく、アジアでも地方の料理を出すお店が増えています」という。
「以前はベトナム料理といえば第一の都市である南部のホーチミン料理を出すお店ばかりでした。ところが、最近は北部ハノイの名物料理、揚げたライギョを使うチャーカーや、B級グルメのベトナム式サンドイッチ、バインミーも東京で食べられます。肉と野菜を香辛料などで和えたバリ島のラワールまで食べられるようになったと知ったときには、本当に驚きました。現地へ行かないと食べられないものだったんですよ」(服部さん)
実際に、タイ料理でも東北地方イサーンや北部のチェンマイ、南部のイスラム教徒だけが食べるというマッサマンカレーがメニューにある店が話題を呼んでいる。他にもミャンマー北部のカチン、インドネシアでも西スマトラ州のパダン、バリ島などの地方グルメが味わえる店や、同じアジアでもブータン、ウイグル、ネパールやウズベキスタンなど、観光地としてメジャーとは言い切れない国や地方の名が掲げられた店が開店している。
「お店がオープンしてすぐは、どこもその地域出身の外国人のお客さんばかりです。でもしばらくすると、旅行先で食べた料理をもう一度食べたい日本人が主にインターネットで情報を探して来店し、その人たちの口コミが他の日本人にも広がり、気づけばお店のお客さんは日本人ばかりになっています」(前出・服部さん)
客層は女性が中心で、欧州やアフリカの地域色豊かな料理を出すお店より、圧倒的にアジア料理の人気が高いという。
「新しい美味しいものを食べたいという好奇心が男性より旺盛なのか、どのお店も女性客が大半です。調味料が独特のように思われていますが、フィリピンのパティス、ベトナムのニョクマム、ラオスのナンパーやタイのナンプラーは大豆ではなく魚が原料の醤油。秋田名物のしょっつると同じですね。アジア料理には醤油を使ったものが多いので、日本人の舌にもなじみやすいのでしょう」(前出・服部さん)
アジアの美味しい料理やお店の情報は、インターネットやSNSの普及によってより早く、広い範囲に届くようになったことも、こういった料理店への注目をよりいっそう高めているのだという。服部さんが続ける。
「十年以上前は代々木公園でタイフェスティバルを開催しても、日本で暮らすタイ人の方が多いこぢんまりしたお祭りでした。でも、いまは普通に歩くのも大変なくらい大勢の人が集まります。Twitterで『タイフェスなう』と美味しそうな料理の写真つきでつぶやけば、あっという間に情報が拡散される。ネットで情報交換するのが当たり前になったことで、以前は成り立ちづらかったアジアの地方色濃い料理でも集客できるようになりました」
簡単に現地へは旅立てないけれど、イベントやレストランで旅行気分を味わえる。SNSで情報を集めてアジアの地方料理でショートバカンス気分を味わうのが、女性たちの今年の夏の過ごし方に加わったようだ。